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「──ねえ」
上を見たまま声を掛けると、タクは小さく「ん」と返事かも分からない声を漏らした。
「今日呼んだのって、これを見せるため?」
「それもあるけど。そういえば、今日だったなって思って」
「何が?」
「三年経つの。リセと付き合い始めてから」
息を吸うのに時間がかかった。
タクといると、たまに呼吸の仕方も、心臓の動かし方だって上手く分からなくなる。生まれて初めて知ったみたいに不器用にぎこちなく息をして、覚えたての言葉を紡ぐ。
「──……覚えてたんだ。記念日なんて」
「覚えてるよ。三年ぐらいなら、丁度キリがいいだろ」
「……長いよ、タクの基準」
素直に嬉しいなんて言葉が言えなくて、声がただ感情の近くを上滑る。
投げ出していた手を伸ばしたら、何となくタクの手と手が重なった。
一瞬離そうとして、止めて。その手にそっと指を絡める。骨ばった、私より随分大きなタクの手が、緩く手を握り返してくれた。
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