オデッセイの旅路

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「そんなこと、何でもっと早く私に言わないのよ」  タクに全部聞いた後、当然のように私はそう言った。何となくむっとして、必要以上にぶっきらぼうに言ったと思う。そう言うべきだと思った。  だって、そんなこと一大事じゃないか。誰だって、親しい人が何も言わずに南極に旅に出たら悲しい。例えるならそんな感じの気持ちだった。  しかし、タクはメビウスの名前を冠ったタバコを飄々と吹きながら首を傾げた。 「何で?」  そんな風に言われると、もう何も言えなかった。  その会話はそこで終わった。でもずっと、その時からその会話が棘みたいに刺さって離れてくれない。  私は友人と喧嘩した時、いつもタクに相談する。まともなことなんて言ってくれないって分かってるけど、それでも。  楽しいことがあった時、面白い漫画を見つけた時、美味しい食べ物を見つけた時。私が真っ先に思い出すのはいつだってタクのことだった。一番に言いたいと思うのは、タクだった。  でも、タクは多分違う。  タクは自分のことなんて微塵も話してくれない。タクの好きな食べ物も、普段何をして過ごしているのかも、私はずっと知らないままだ。 「バカみたい……」  相談されなかったのが寂しかったんだろうか。そんな風に言葉にしてしまえば簡単なんだけど、それだけかと言うと、少し違うような気もする。  思えば、付き合い始めたのだって、デートの約束だって、ずっと私の希望だった。タクはいつも私の希望をただ聞いてくれただけ。タクの方から、私を求めてくれたことは一度もない。キスだって私からだった。  最近、好きな理由が分からない。ホントに私はタクのこと好きなんだろうか。カフェラテは甘くて美味しいから好き、みたいな明確な理由が何処を探しても見つからない。  高校生だった私は、タクの何処が良かったんだろう。考えてみても、結構いいとこないと思う。
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