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タクは丘の上に座っていつもみたいにタバコを吸っていた。
丘の周りに生えた木が額縁みたいで、その姿が何処か現実味を帯びていない。
目を離したらそのまま夜に溶けてどこかに行ってしまいそうで、少し怖かった。滅多に切らないせいで長い前髪が邪魔をしていて、タクの表情は上手く見えない。月の光も反射しない黒い髪が、夜みたいだなと思う。
額縁の中で、タクが空を呪うみたいに、ゆっくり夜空に白い煙を吐き出す。
煙が晴れたところから、夜空は星空に替わった。その時に初めて、もう星が見え始めていることに気が付いた。
いつの間にか止まっていた足を丘の上へ向ける。額縁を壊すように、踏み荒らす。
私が来たことには気が付いているだろうに、タクは視線もこちらに寄越さなかった。
「──タク」
足早になって来たのがバレないように汗を拭って、息を整えてから声を掛ける。
タクはやっぱりこちらをチラリとも見ずに、曖昧な返事を返した。代わりに、タクはこんなことを言う。
「最近さ、ここで寝てたりするの。虫には刺されるけど結構なんとかなるよ」
「……バカでしょ、ホント」
気が抜けた。タクの傍らに立って、表情を覗き込もうとする。
「何でここに呼びだしたの?」
「もうちょい秘密」
「なにそれ」
この距離まで来ても、前髪のせいでタクの目は見えない。
ただでさえ遠い距離がどんどん遠くなるから、せめて表情ぐらいは見せて欲しい。
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