オデッセイの旅路

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 オデュッセイアは、確か古代ギリシアの詩人が語った物語で、簡単に言うならトロイヤ戦争の英雄、オデュッセウスが戦争の後十年かけて家に帰るお話だ。  戦争の後、オデュッセウスはポセイドンという神様に恨まれて、帰路の途中で様々な困難に襲われる。  それでもオデュッセウスはなんとか家に帰り、生きているかも分からない彼の帰りをその奥さんはずっと待っている。そんな話だったと思う。 「……タクはどうなの? タクは……十年かけて、私のとこに戻ってきてくれる?」 「無理だな。多分、途中で野垂れ死ぬと思う」 「そういうこと言ってるんじゃなくて……」  今日何回目かも分からないため息を吐く。ため息を吐くと幸せが逃げていくなら、私の幸せはとっくの昔に底をついているだろう。  それもこれも、全部隣にいる男のせいだ。後悔は先に立たない。好きになったのが、タクじゃなかったら良かった。他の人だったら、きっとこんなに辛くなかったのに。そんなことを、何度も思う。  でも、諦めかけた私に反して、タクは続けた。 「──でも、待つよ」 「え……」 「十年でも、何十年でも。待つ方なら、多分出来る。オデュッセウスの奥さんみたいに」 「……何で、そっち側なんだよ。バカ」  笑ってしまう。それだけで、胸が高鳴ったのが悔しかった。  本当に単純なもので、そんな言葉一つで胸の中にわだかまっていたものが少し、溶けていくのが分かる。  何か、言いたいと思った。でも何を言えばいいか分からずに黙っていると、タクは静かに私のことを呼ぶ。
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