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お父さんって、ニガテ。
ほんと、ニガテ。
足くさいし。
お腹出てるし。
なんかクサいし。
傍にいたら絶対「勉強してるか」とか「友達できたか」とか聞いてくるし。
ほとんどいないくせに。
家にいないくせにさ。
ウザイ。
ほんと、ウザイ。
お母さんって、バカ。
ほんと、バカ。
お父さん帰ってくるまで起きてるし。
ご飯毎日作ってるし。
ちゃんと朝も起きてきてわたしと弟とお父さんの分のお弁当まで作ってるし。
わたしや弟やお父さんが何か言っても、笑って聞き流すだけだし。
なんてーの?
自分の意見がないってーの?
ほんと、バカ。
ああはなりたくないね。
でも見ちゃう。
なんか見ちゃう。
洗濯物を畳んでいるお母さんの横で
わたしはだらしなくソファに座り、スマホをいじっていた。
「げわぁー。それ、お父さんの?」
思わず話しかけていた。
だって、それくらいひどかったのだ。
お母さんはそのヨレヨレボロボロビロビロの『捨てようよ三拍子』が揃ったオレンジ色の無地のTシャツを広げると、目を丸くしてわたしを見た。
突然、吹き出す。
今度はわたしが目を丸くする番だった。
「え? なに?」
「いやー、覚えてないんだなぁと思って」
「……は?」
心の底から出た「は?」だったが、お母さんはまたも笑う。
「どういう」
「昔、あんたらがまだ2歳か3歳か。この服、よく着てたのよ」
「え。やだぁ」
「梅雨時期にね、服がなかなか乾かない時、2人のパジャマもひとつもなかったことがあったの。その時、パパが『おれのTシャツを着せたらいい。大人サイズのTシャツはちょうどワンピースになるんだ。特別感あって、チビ共も喜ぶぞ。おれも小さい頃、自分の干されたパジャマ見てな、乾くなーって念じたもんだ』って言ったことがあって」
「へぇ。ふぅん」
「珍しく饒舌だな、お母さん」ってのと、
「へぇ。ああ、はぁ。なんか、あったかもしれない。そういうこと」ってのが、同時に浮かんだ。
「このTシャツは、最もあんたら2人に人気だったものなのよ。きっと思い出が染み付いていて捨てられないのよね、今も」
「へぇ。そういうもん?」
「うん。そういうもん。わたしも捨てられないもん、ふたりがよく遊んだ玩具とか」
「へぇ。ふぅん。大事ってやつなんだ」
「そう。大事ってやつ」
言いながらお母さんは、よっこいせと立ち上がった。
洗濯カゴの一番上にのせられたオレンジ色のTシャツに向けて、スマホのカメラボタンを押す。
カシャ。
ツイッターにのせたら、バズるかなぁ。
『昔わたしと弟がよくワンピにしてた父のTシャツ。思い出深くて捨てられないらしい。みんなもやった?』
って書いて写真のせるの。
あ、面白そう。
思いながらわたしは、
今日もし会えたら「おかえり」くらいは言ってやるか。
って、考えてた。
まぁ、クサくてバカな両親だけど、
キライってわけじゃないし?
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