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 最初こそ顔を赤らめていた千鳥だが、こうもずっと繋がれたままでは恥じらいも何もあったものではない。  あからさまに迷惑がる千鳥に「ああ、すまないな。つい」と雪谷はやっと手を離してくれた。  口では謝りつつも、その態度は全く悪いとは思っていない。そんな彼に眉を寄せつつ、千鳥は店員が持ってきてくれた二つの紙カップの内、手前にある方を取った。  もう一つはホットコーヒー、つまり雪谷の分だ。  上に被せられているプラスチック製の蓋には小さな飲み口が空いている。火傷しないよう慎重に飲む千鳥と同じように、雪谷もカップを手に取ると口を付けた。  こうして見ると案外普通──というか、それなりに格好良いのに。と千鳥はそんな感想を抱いた。  長原が一目惚れしたというのも分からなくはない。ただ、先にあの奇妙な言葉を聞いてしまった千鳥にとって雪谷は完全に不審者だ。 「それで、私に何か用ですか」  天気の良い午前十時。麗らかな春のカフェテラスでこのまま楽しくティータイム、などする気はさらさらない。
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