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 しかも依頼人の誰もが千鳥が代筆したラブレターで告白が成功するとくる。なので当時の千鳥は地元ではちょっとした有名人だった。 [恋文代筆人]などという大層な異名まで付けられラブレターの代筆を依頼されることについて、特に嫌な気はしなかった。  天地がひっくり返っても告白などという芸当が出来る気がしない千鳥。  そんな千鳥にとって、ラブレターの代筆はまるでそれを疑似体験しているかのような気がして楽しかった。  それに、恋した人の為に沢山の時間をかけて紡がれた文章を限りなく自然に読むことが出来るのも好きだった。  千鳥に代筆を頼みたくても頼めない人間は一定数いる。  それは愛がしたためられた文面を見られるのが恥ずかしいだとか、好きな人を知られることに抵抗があるだとか、理由は色々ある。  しかしその恥を全て捨てて千鳥に代筆を頼んでくる人間が考える文章は、やはり心を動かすものがあった。  本気で好きな人を思う、そんな彼らのささやかな手伝いが出来たなら。  千鳥が短大に進学しても未だ細々と代筆業を続けているのは、そうした思いが根底にあってどうにも辞めきれない為だ。
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