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助かった。安堵の吐息を吐き出して、彼女は窓枠に足をかけて手を伸ばす。梯子を掴んだことを確認すると、そのままゆっくりと登っていった。
ここで落ちるわけにはいかない、ここではないのだ、と自分に強く言い聞かせた。かなりの高さがある窓から身を乗り出すことも、梯子を登ることも、今は何も怖くなかった。
梯子を登り切った彼女は、一度地面に座り込んでからゆっくりと顔を上げる。そこは屋上のような所だった。
人が立ち入れる設計で作られた場所ではないので、正確には屋根といった方が正しいかもしれない。
剥き出しのコンクリート面と照明は外壁に比べるとあまりにそっけない。
外見だけを無意味に着飾った女の姿を連想させるその対比に同情しつつ、彼女は立ち上がって屋根の端まで歩いていった。
美しい景色だった。今まで見てきたどんな景色よりも価値のあるそれを、彼女は目に焼き付けるようにして見つめ続ける。
しかし、ぐらりと身体の重心が崩れ始めて、彼女はぼんやりと直感する。ああ、もう[限界]なのだと。
「……ありがとう」
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