水茎の跡も麗しく〜恋文代筆人 千鳥紋瑚の事件録〜

prologue

　微笑んで、彼女は呟く。罪を背負っていると分かっていても、赦されるはずはないと理解していても、最後にこの景色を見ることが出来た彼女はとても［幸せ］だった。

　そうして彼女は身を投げる。風を切って、重力に従って加速する。もうすぐだ、もうすぐ、やっといける。いかなくちゃ、今すぐに。

　すぐ後に頭蓋骨付近で響いた耳障りな音を最後に、彼女を苦しめていた胸の痛みはぱたりと消えた。