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「これに懲りたら、もう課題は先延ばしにしないことね」  閉館間際の図書館で、千鳥の隣を歩く女性がからかうような口調で話しかける。  痛んでいる所など全く見付からない美しい黒髪は、琥珀模様のシンプルなバレッタですっきりとまとめられている。  加えて品の良い薄紫のスカーフを首に巻き、白のスーツを着こなす彼女──久ヶ原詩尋(くがはらしひろ)は、同性の千鳥から見ても綺麗な女性だ。  対する千鳥は焦茶色の髪だった。元は黒だが、折角大学生になるのだからと思い切ってカラーに挑戦してみたのだ。  上京したばかりで都内の高い美容院に行くようなお金はない。  その為ドラッグストアで安く買った染髪剤を使ってみたのだが──結果、カラーしたのかしていないのか良く分からない、中途半端な色になってしまったというわけである。  ビビって暗めの色を選ぶんじゃなかったという後悔は帰省した際、実家に残っている弟には瞬時に見抜かれた。 『高校生のビビり染めでももっと分かる色にするって』などと馬鹿にしたように笑われたので、とりあえず向こう脛に一発食らわせて姉の威厳を守り通した。
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