水茎の跡も麗しく〜恋文代筆人 千鳥紋瑚の事件録〜

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　あの時は適当に流していたが、実際に説明されると先生の事情もなんとなく分かる。土日返上で部活を見るのなら、一体いつ家事やその他の用事を済ませれば良いのか。

　一人暮らしを始めたばかりの千鳥は確実に一日はオフを作らなければとても回らない。そう考えると先生という職業は殊更凄い気がしてくる。

「先生も色々大変なんですね」

「そういうこと」

　そんな話をしながら、千鳥と久ヶ原は出入り口の自動扉を抜けて地上へと繋がる階段を上がる。

　四大の図書館は一階に入り口があるが、短大の方は建物の構造上地下に入り口がある。階段は十分幅がある為、人通りの多い時間帯でも混雑することはない。

　そもそも蔵書の数やバリエーションを考えるなら、遥かに規模の広い四大の図書館へ行った方が効率的な面を考えても良いだろう。

　わざわざ短大の図書館を訪れるのは、自習スペースにこだわりを持っているか、コアな蔵書目当てか。

　または九割九分女子しか使わない為、変に気を遣うことなく堂々と昼寝をするか。こんな所だろう。

　階段を上りきると、外はすっかり日が落ちていた。少し湿っぽい匂いが千鳥の鼻を掠める。