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コンクリートで舗装された地面に目を落とす。本来であれば白に近い筈の地面は、所々がまるで染みのような濃い灰色に変わっている。
加えて、ほんの少し窪んだ箇所には水が溜まっていた。どうやら雨が降った後のようだ。
「あら、雨上がったのね。良かったわ」
千鳥と同じように地面を見ていた久ヶ原は、次に空を見上げてそう呟く。
「雨降ってたんですね、知らなかった」
「ええ、昼前に降り始めたの。研究室からここまでは大して距離もないし、まだ小雨だったから傘は持ってこなかったけれど」
「危なくないんですか……パソコン、壊れちゃったら大ごとでしょ?」
久ヶ原はノートパソコンを裸のまま持ち歩いている。水に弱い精密機械を雨の中に晒すのは、そこまで機械に詳しくない千鳥でも懸念する所だ。
しかし久ヶ原本人はさして気にする様子もなく、むしろ「大丈夫よ、これ防水だから」と呑気に笑うので千鳥は脱力してしまう。
入学して一ヶ月、現代日本文学を研究する久ヶ原とは出会ってまだ三週間と経っていない。
しかしこの短期間でも彼女がいかに博識かつ聡明で、そのくせ変な所で大雑把なのかを千鳥は理解しつつある。
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