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体重も順調に増え生後半年になる頃には予想通りデメはカレンダーの商業猫に劣らないむしろ、うりふたつ、な愛くるしい見た目になった。3階建てキャットケージの天辺にいるグレイに近づくために、ジャンプではあがれない高さを、両腕ならぬ両前脚でジャングルジムのようにガシガシと登るようになった。多少背中から肩が筋肉質になったけれど、ふわふわの白に金茶色の毛並みはそれをカバーし余りある美しさだった。たまにギィニャギァと訴えるけれどグレイと餌に執着するくらいで手間もかからない。近づいては来るが気分次第だ。
スカートや服のヒラヒラ揺れる感じと黒いパンツに異様な怯えをみせること、窓を開けると部屋の奥へ逃げ隠れることを、デメに一目惚れした里親さんに伝え送り出した。
一週間を待たずにデメは戻ってきた。朝から晩まで喚き続けて餌も食べていないと里親さんがギブアップしたのだ。せめて二週間トライして欲しかったけれど、こういうのは相性だから仕方ない。何かわからないが喚く理由があったのかも知れない、とその時は思った。その後の里親さんも同様だったが、こちらは先住猫もいたのでやはり相性の問題かなぁと互いに納得した。それから慎重にと、ひと月ほど里親希望の女性がうちまで通いデメが寛ぐようになったので、お試しに連れ帰った。翌々日、鳴き喚き餌を食べていないので様子を見に来て欲しいと連絡があった。行った先で、デメはしれっとカリカリを食べ、うちにいた時と同じように爪をしっかり立てながら膝にのってきた。
「ほんとうに、さっきまで、というか来てから2日間鳴き通しであちこち彷徨っていたんです、ほんとうに、ほんとうなんです。前の里親候補さんのお話も聞いてましたけど、慣れてくれれば大丈夫だと、そちらに通ううちに慣れてくれましたし、そう思っていたんですけど。」
「でも。この様子なら大丈夫そうですね。」
「正直言いますと、その、前の里親希望の方たちは大袈裟というか、猫の扱いに慣れてなかったんじゃないかなって思ってたんです。」
膝でうとうとするデメをそのままぶらんと持ち上げ彼女の膝にのせた。ぐぅぐぅと喉を鳴らし撫でられる手に口元を擦りつけている。うん。普通だね。むしろ甘ったれだね。
「ですよねえ。不思議ではあったんです。うちでは用が無ければ鳴かないくらいで。食べられなかった時期があるようで、餌への執着も酷いし、たまに手づかみで持って逃げますからね。」
「あれは可愛いですよね。あとあれも。口いっぱい詰め込んで安全な場所で零して食べるの。」
指をきゅっと握り込むデメの前脚の肉球をくすぐりながら彼女は愉しげに微笑んだ。うん。いい飼い主さんだ。
「思ったんです。デメちゃんはあのうちがいいんだなって。貴女のところからどこにも行きたくないんじゃないかなあ、って。」
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