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せっかくなので書籍を見て回る。小学校の図書室の物語を制覇したワタクシ。そしてそれが誇れる一番のエピソード。だけど近頃はダメね。選んでしまうから偏る上に、図書室と違って無限に増えていく物語に手に取る前に諦めてしまう。今日もお気に入りの作家さんの新作が出てないか眺め、流行りの装丁を訳知り顔でふふんと手に取り積み直す。様式美大事。そうやって一通り棚をふらふら徘徊しコーヒーショップに足を向けた。
ショップの手前の画集のコーナーは鳥獣戯画から宗教画に代わっていた。お高いけれどぱっと目を惹く表紙が並ぶ画集コーナー。欲しいようなそうでもないような、貰えたら嬉しい。でも家の本棚で眠るなら活躍させてくれる誰かに渡る方がいいような、わけのわからないジレンマ。そんなことばっかりだ。手もとに新しい何かを置くかどうか、それが傘1本でもマグカップ1個でも悩む。これも終活かな。棚の上段。地味な瓶覗き色の背景に額と背の黒い秘色の猫。金混じりの翡翠の瞳。胸がざわざわした。白抜きのタイトルは『タマ、帰っておいで』『横尾忠則』あぁ横尾さん。知ってる。あれ?なんで知ってる?画家さんだよね。あれ?なんで知ってるんだろ?勘違い?藤田嗣治さんと勘違いか?『タマ』は。タマの柄はうちの三毛猫シロコさんに似てない。シロコさんはそれはもう贔屓しまくりで絶世の美猫だった。のに。瞳が。たたずまいが。シロコさんだ。REQUIEM for TAMAの副題にぐっと喉の奥がつまる。一度目を閉じる。おさまらない胸のざわめきと詰まる喉を無視して無作為にページを開き猫を見て本を閉じる。意味はある。違うページを開き恐々絵を目に留めまた本を閉じた。慟哭しか感じない。競り上がる飲み込めない塊をぐっと喉の奥に押し返し、レジに向かった。表紙が哀しい。かさぶたにさえなっていない傷を見せつけられているよう。ここで眺めたらダメだ。コーヒー豆を買わなくちゃ。ショップのいつものお兄さんと豆談義を交わしたり。帰りのドラッグストアで白猫のごはんを用意したり。洗濯して掃除機をかけて。白猫の居ない部屋で。猫たちの遺骨の無い場所で画集を開いた。
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