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泣いて泣いて泣いて。自分のためだけに泣いて泣いた。横尾さんの飾り気ない文に勝手に気持ちをのせてまた泣いた。今も泣いているわ。文中にあった内田百聞さんの『ノラや』を本棚から引っ張りだしまた泣いた。泣くことが必要だと、シロコさんはきっと言う。
想い出になるのがいやなの、シロさん。
出窓で日なたぼっこをする貴女が薄っぺらくて。口元が緩んで菩薩のように笑んで見えたわ。ああ逝くんだとわかったの。だって長い付き合いだもの。キラキラやわらかい陽射しにぼさぼさの抜け毛が反射してみすぼらしくなっちゃって。シロさんのお尻を枕にする白猫に尻尾をバシバシ抗議してたわ。「調子悪いねえ」人差し指で額をこするとグルグル鳴いた。シロさんのグルグルは他の猫の3倍は大きかったね。貴女と約束できなかったこと。最期が来たら何もしないでみおくること。貴女が望んであたしが叶えなかったいくつかのことで、唯一正しさを迷ったよ。でもねえ、シロさん、シロコさん。触れる貴女の温かさや機嫌のわかりやすい声を手放せなかった。あの暖かな日だまりでサヨナラできていたら貴女は苦しくなかったんだろうなあ。
その日の病院で癌と診断されて。余命2週間と言われて。薬は吐いちゃって結局飲めなかったね。食べなくなってから1週間が過ぎて。必死に食べさせようとするワタクシへのサービスで獲れたてのアジを二切れ食べてくれた。獣医さんびっくりしてたよね。もう食べられるはずが無いって。院長先生が診察の時はシャンとして、診察室の出窓に上ったりしてね。2か月間。毎晩、にわか看護師のワタクシの輸液点滴は慣れなくて痛い日もあったね。抗議する尻尾にワタクシ泣いたわ。日々が惜しくて。想い出になるのは怖いのに写真を撮らずにはいられなかった。写真を撮っては、想い出になる日を恐れて泣いて。何が怖いかわかる?写真の貴女しか思い出せなくなることが怖いの。忘れたくないの。全部。思い出して泣いてを繰り返してたら、きっと、貴女がすり減っていく。思い出が美化されてしまう。違うの。そんなのはいやなの。綺麗事だけじゃなかったよね、ワタクシたち。友人で母役でいつまでも仔猫で喧嘩ばかりの仲良し姉妹だったのに。ワタクシを追い越しておばあちゃんになっちゃって。ずるいよ。
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