金茶色

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金茶色

ノルウェージャン混ざりの巨体な猫が逝った。いつでも彼の後を追っていた金茶色の猫は七七日(しじゅうくにち)の翌日、死を選んだ。 搬入口の業務用冷凍庫の裏からギィギイ鳴き声がしてるんです、と桜色のワンピースに衣替えしたエレガが裏口の警備員に訴えていた。ネズミが粘着テープにかかったかな。施設課(ボイラーさん)呼びます、とすげなく言われている。早番で帰るワタクシと目があう。声聞こえます?ネズミじゃないよね?ネズミってあんな声?さぁどうでしょう、でも確かにちよっと大きいような、あ、ボイラーさん来ましたね。スゴい声ね。怖いわ。あれ生きてるんでしょう。ネズミどうするのかしら。ああたぶん水に沈めて、粘着テープごとポイかと。ええひどい。 きゅっと拳を握りハラハラとボイラーさんの動向を見つめるエレガから離脱するタイミングを失ってるうちに、ギィギイ声はどんどん大きくなりボイラーさんの背中がこちらに後退してきた。たぶんネズミじゃないですね。なにか小動物、イタチとかですかね?それだとどうなるの?殺さないわよね? 「なんだこりゃ。」 「仔狸か?いや仔猫か?」 「えっ!仔猫なの!?」 ボイラーさんが端を持つネズミとりの粘着テープが背中に貼りつき掠れた大声で悲鳴をあげつづける。目ヤニと鼻水の両方で顔は濡れぐちゃぐちゃで両手両足を空に伸ばし牙をむく。あれ、なんかこの仔猫、仔猫、なのか?違和感が。観察するワタクシの隣でほっと安堵の息が漏れた。猫ちゃんなら処分しないんでしょう?よかったわね。 「あー、猫か、、まあ、いや、しかしなあ、」 ボイラーさんは歯切れ悪く警備員さんも目を逸らす。ネズミでもイタチでも、猫でも。仔犬だったとしてもマニュアルは変わらない。 「じゃあ保健所呼びますね。」 「お願いします。保健所来たらボイラー室まで内線で。」 「ええ?!なんで!逃がしてあげたらいいじゃない!ねえ、粘着テープ剥がして逃がしてあげましょ。」貴女もそう思うわよね?ね?いやそう簡単な話ではなくて。まず剥がれないですし、粘着テープの毛を切るしかないと、じゃあ切りましょうよ!ボイラー室に行けばハサミもあるわ。いや、だけど、 「いけない!休憩終わっちゃう!保健所なんか絶対ダメよ。知ってます?殺されちゃうのよ?後でボイラー室に寄ります。じゃあまた。」 颯爽と階段を駆け上がるエレガに為す術無く。結局どうします?連絡不要で。と告げ、勤続してから初めてボイラー室をたずねた。
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