金茶色

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やわらかい仔猫の毛をハサミで切るのは困難を極めた。暴れるし。室長は冷ややかで、そんでそれどうするんだ?と口にした。さあ。どうするんでしょうね。あのエレガが引きとる気が全くしなくて。ひと思いに処分する方がいいと俺は思う。まあそういう決まりですよね。 「新人(いちねんめ)が余計な口はさみやがって。あんたはなんなんだ?」 「今は2階の喫茶の」 「それは知ってる。ショーケース搬入したの俺だっただろ。5年目がなんで関わってんだ、って話。」なんでですかね。新人の知り合いか?いえいえ華やかな部署の新人さんと絡む機会なんてありませんよ。たまたま運悪く居合わせただけで。 「よかったあ。居たあ!仔猫ちゃん無事ですかぁ。ボイラー室がわからなくて迷いました。地下2階は来たこと無いし先輩も知らなくて。わあ秘密基地みたい。」 「ノックして在室確認しろって教わらなかったのか。」 「地下でモロゾフのプリン買ってきました。食べちゃいましょう!ねこちゃん、よかったですねえ。もうネズミ取りにひっかかっちゃダメよ。」 「そんで?あんたがひきとんのか?」 「はい。ちゃんとお外で逃がします!」 室長とワタクシはおんなじ表情をしていた。 そしてインスタントコーヒーを啜り、甘い高級プリンを無言で口に運んだ。仔猫はそのモロゾフの小さなケーキ箱に入れられ、我が家にやって来た。 室長とはその後も設備点検を優先してもらえたり差し入れしたりお茶のみに行ったりと良い関係を築いた。彼女は一年目(しんじん)の花形職エレベーターガールを終えると同時に退職したそうだ。エレガになるのが子供の頃からの夢だったと言っていたから、夢を叶え次の目標にむかったのかもしれない。非常に迷惑な話だと他部署ながら思ったりした。 汚い仔猫を小さなケーキ箱で持ち帰った日は先住猫の1歳の誕生日だった。賢い三毛猫はいったん玄関まで出迎えたあと、訝しげに棚にあがった。4匹の誕生日の猫たちが足元にじゃれつく。テーブルにケーキ箱をあげると興味津々に取り囲んだ。 「おまえたち、ハッピーバースディだね。プレゼントだよー。」 前開きのケーキ箱を開けると、ギィィィと鳴き声があがり蜘蛛の子を散らすように1歳の猫たちは居なくなった。棚から見下ろす三毛猫だけが鼻に皺をよせうぅぅぅぅぅう゛と低く低く威嚇した。
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