家 族

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 私が思う以上に母は私を愛してくれていたのかも知れない。  なぜ私は母の愛を信じられず、私より庸一郎のほうが大事なんだと思い込んでいたのだろう。勝手に孤独を感じ傷つきながら、必死に愛されたいと願い求め続けた。もうすでに手の中にあるのも気付かずに。 「お父様、庸一郎さんと養子縁組しても構わないわよ」  いや、と急に社長の顔にもどって冷徹な表情を見せる。 「お母様の言う通りだ。必要ない。蘭子は子供を作って庸一郎君よりも長生きすることだな」 「お父様はお母様の分も長生きしてくださいね」 「いいのか? 長く生きると再婚するかも知れんぞ?」  そう言って父は冗談めかして笑った。 「構わないわよ、お父様が幸せなら。再婚相手が気に入らない女でも、悪口言ったり喧嘩しながらそれなりにやってくわ。きっと伯母様達は私の味方になってくれるだろうし…」  うへぇと父の顔がゆがむ。  私が声を出して笑うと父もつられて笑った。 「お、庸一郎君だ」  見ると庸一郎がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。  少し不満げな顔が、誘ってくれないなんてと疎外感を滲ませていた。 「いつの間にか姿が見えなくなってて焦ったよ」 「ごめんなさい。ほら、見て。お母様が天に昇って行くわ」  見上げた庸一郎の瞳は、彼方に母を見ているような切なくも優しい笑みを含んでいた。  ふっと深い息を吐く。 「これでやっと本物の隆太郎君に会えたね」  誰に言うともなくぽつんと呟く。  それは父と私に、天の母と隆太郎に、あるいは彼自身に向けられた温かい呟きだった。  父や母、私だけではなかった。  彼もまた、10歳、仲が良かった従弟を亡くしたその時から、庸一郎であり隆太郎である自分を演じ、駆け抜けてきた。  私は思わず彼の手をとった。 「あなたはずっと本物だったわ。本物の庸一郎さん以外の何者でもなかった。母にとってもね」  父もそうだなと応じる。  父と庸一郎、私はいつまでも空を眺めていた。 終わり
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