揺 れ る 灯

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 母と私の関係は互いに距離を測り、気遣いながら母娘を演じていた。  何の遠慮もなく言いたいことを言い合い馴れ合う関係、それが本当の母娘なのだろう。そんな普通の母娘に比べれば希薄な関係なのかもしれない。  実際のところ、母がどこまで私のことを娘として信頼してくれていたのかわからない。  しかし、少なくとも私の中では「母」と言われて思いうかべる人は彼女しかいない。私を包み込むような穏やかで柔らかな笑みを湛えた、たおやかで可愛い女性、黒田杏紗ただ一人である。  通夜の夜、ひとり母に寄り添っていると庸一郎が来て私の傍らに座った。 「庸一郎さん、この半年間、本当にありがとう。心から感謝してるわ」 「やめてくれよ。そんな他人行儀な……まあ、蘭ちゃんにとっては他人か…」  庸一郎が、ふっと自嘲気味に笑う。 「他人なわけないでしょう、今も…昔から私達は家族よ」  チラッと庸一郎に視線をやり、ちょっと照れくさいけどと付け加える。  ふっと笑いが漏れ、ありがとうと返ってくる。 「子供には会ってるの?」  半年間、心から母に尽くしてくれた庸一郎の姿が、私に自然にその言葉を言わせる。  彼の笑顔が一瞬固まった。 「いや…会ってない」 「父が後悔しているそうよ」  お義父(とう)さん?と私の顔を見る。 「赤ちゃんの時の私を知らないのが辛いんですって。しくじったという思いが強くて、私には会えなかったそうよ。それを今は後悔していると言ってたわ」  庸一郎は視線を戻して無言になる。 「別に私に気を遣わなくていいわ。その子は昔の私だもの。否定はできないし、幸せに育って欲しいと思ってる…私のようにね。だから、できる限り会いに行ってあげて。その子にとって父親はあなたしかいないから」  私は今にも起きてきそうな穏やかな顔の母に視線を落とし、小さく息を吐いた。 「どちらが妾かわからなくなってきたわね…」  思わず自虐めいた笑みが浮かんだ。 「そんなこと言われて、俺、どんな顔をしていいかわからないよ」  庸一郎が困惑顔で項垂れる。 「母が言ってたの。私と庸一郎さんが結婚したら、お父様とまた一緒になるみたいって。二人を落胆させることだけはしたくない。だからこの先、あなたが別れて欲しいって言っても別れてあげない」  庸一郎が項垂れたまま目だけ私を見る。 「色々な夫婦の形があってもいいじゃない。妾とか愛人みたいな…妹みたいな本妻がいてもいいでしょ」  いたずらっぽく笑うと、庸一郎から重荷をおろしてほっと息をついたような軽い笑い声が漏れた。
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