家 族

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「彼はお前に認めてもらおうと必死だぞ。健気に頑張ってる姿を見ると可哀相になるよ。まあ、一緒に過ごしたら、また違った局面になるかも知れないしな。よく考えたらいい」  つまり父は庸一郎と別れて欲しくないと言っているのだろう。  妬けるわねと呟く。  何?と父が訊き返す。  何でもないと素っ気なく返した。 「お父様、少し現実的なお話をしていい?」  思い切って切り出した。  父は悠然と何だ?と微笑む。 「私が自由にできる財産はどのくらいあるの?」 「何か欲しい物でもあるのか?」 「何だか憂さ晴らしがしたいの。何もかも忘れて……気持ちの整理が付いたら子供のことも考えようかしら」  私は無邪気な笑顔を作って父を見た。 「庸一郎さんと分けるのだから使い過ぎてもダメでしょう?」 「庸一郎君? なぜ?」 「だって以前、養子縁組するって言ってたわ」  父が、蘭子はお人好しだねと苦笑する。 「絶対に庸一郎君と養子縁組はしないようにとお母様に遺言されてる。杏紗と言いお袋と言い、女はそういうところだけはしっかりしているよな」  数年前に亡くなった祖母は、祖父から引き継いだ財産全てを私に残すよう遺言した。祖母にとって最愛の息子も、自分より嫁とその家族を大事にする面白くない息子になっていたようだった。  子供の頃、庸一郎家族と旅行に行った話を祖母に楽しそうにすると、 「全く、晋太郎は私を旅行一つ連れて行かないで、あちらさんばかりを大事にする。息子なんて生んでも良いことなんてありゃしない」  と、父に対する不平不満が口を衝いて出る。  父に、祖母を旅行に連れて行こうと提案すると、 「伯母様達が寄ってたかって連れ出してるからいいんだよ。結局、金はこっちが出してるんだから、蘭子は何も心配しなくていいよ。蘭子だって、お婆様とお母様の間で辛い思いをしたくないだろう?」  どうやら、二人の間に立つのは辛いことのようだった。  そして、長年の確執が全財産を孫に引き渡し、嫁に渡る可能性を潰すことで祖母は溜まった鬱憤を晴らしたのだろう。  父は3人の姉の遺留分(いりゅうぶん)相続手続きが面倒だったとぼやいていたが、相続人を私一人にされたことについては、 「そんなことされても痛くも痒くもない。むしろありがとうと感謝したいね」と豪快に笑い飛ばしていた。  母も、ゆくゆくは庸一郎の子供に財産が渡ることを阻止しようとしたのだろうか。  この半年間の母への献身を見てきただけに、彼が気の毒になった。
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