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「みーちゃんは優しい男が好みかと思ったんだけど」
「ゆう、くん?」
「ちゃんと俺も男だってこと、わかってもらわないと駄目みたい」
「え?」
言うが早いか柔らかな唇が降りてきて、私の唇に重ねられる。
まつ毛が触れそうなほどに近くに悠志くんの顔が近くて呼吸が止まって思考も止まってしまった。
唇が離れても固まったままの私の頭を悠志くんが優しく撫でる。
「好きだよ、みーちゃん」
甘ったるい声音で囁かれてもう一度キスされる。
今度はさっきみたいに触れるだけじゃなくて、舌が滑り込んでくる。
「ん、んんぅ!?」
驚いて腰を浮かせたせいで座っていたパイプ椅子が音を立てて倒れそうになった。
不安定な体勢になったせいで、思わず私の唇を奪っている悠志君の身体にしがみつてしまう。
背中に回った腕が私の身体を優しく抱きしめてきて、悠志くんの目が嬉しそうに微笑んだ気がした。
口の中で好き勝手に動く舌が私の舌を弄ぶように舐めたり撫でたりを繰り返す。
歯の裏側をなぞられて、上あごや下あごなど、自分の舌でさえ触れたことがない場所をじっくり味わわれていく。
「ん、んっ」
呼吸がうまくできなくて鼻を鳴らして悠志くんの肩を叩くが、抱きしめてくる力は弱まらないし、キスの深さは変わらない。
酸素が足りなくてくらくらしてくる。
背中を撫でていた悠志くんの腕がするすると滑り落ちて私のお尻を優しく撫で始めた。
お尻の形を確かめるように大きく動いて、割れ目を広げるみたいに指が上下した。
恥ずかしくて逃げるように腰を揺らせば、まるで甘えているみたいな動きになって、さらに恥ずかしい。
「んー!!だ、だめっ!」
全力を振り絞って悠志くんの胸を押してキスから逃れる。
ようやく口から呼吸できるようになり肺に新鮮な空気が満ちる。
「なんで」
肩で息をしながら真っ赤になっているであろう顔を隠しながら後ずされば、いつも優しくてふわふわした空気をまとっている悠志くんがちょっとだけ怖い顔で笑っていた。
「言ったでしょ、好きだよって」
「うそ」
「嘘じゃないよ。一目ぼれ」
じりじりと逃げるけど、あっという間に壁際に追い詰められてしまう。
壁に背中をくっつけて顔を伏せた私を両手で囲うように追い詰めた悠志くんが頭の上で低く笑うから、そっと上目使いに見上げてみる。
「かわいくて、かわいくて、食べちゃいたい」
優しくて子犬みたいな可愛い人だと思っていたのに、オオカミみたいに私を見下ろしている。
「みーちゃん、無防備だし、優しい人がタイプだって言ってたじゃん。だから俺、キャラづくり頑張ったんだけどな」
「ゆうくん・・・」
「結構いい雰囲気になってた筈なのに、男だと思われてないとかショック。作戦変更かなって」
にっこりとあの優しさはどこへ消えたのかと思う程に意地悪な笑顔。
「べ、別に男の人と思ってないわけじゃないけど」
「でも意識してなかったでしょ?」
「それは・・・だって、ゆうくんが私の事そんな風に想ってるなんてしらなかったんだもん」
男の人から好きだと言われた事も付き合った事もない。
恋愛なんてドラマや映画の中の話で、自分とは縁遠いと思ってたから。
「じゃあ、今は?」
悠志くんが私の首筋に顔をうずめてくる。
柔らかい髪の毛が頬や耳をくすぐるし、首筋に触れる暖かな他人の体温は落ち着かない。
「それは・・・」
急にそんなこと言われても困る。でも、心臓がどきどきうるさいし、触られてるのは嫌じゃなくて。
石けんみたいな優しい匂いが私の全身を包んでくるから、さっきとは別の意味でくらくらしてくる。
「俺の事、いや?」
「・・・いや、じゃない」
意識してないといいつつ、実は、もしゆうくんが恋人だったらって考えたことがないわけじゃない。
デートしたり電話したり、きっと楽しいだろうなって想像した事がある。
でも、自分が誰かとそういう関係になるなんて上手に想像できなくて。
「じゃあ、俺のこと好きになってよ」
「ぅ!!」
ぽん、と頭が弾けそうなほどに熱が上がったのが嫌でもわかった。
唇が渇いて言葉が出てこなくて、どうしていいのわからずに悠志くんを見上げれば、いつもと変わらない優しい笑顔にもどってて、私の鼻の頭に猫みたいな優しいキスをしてくれた。
「俺と付き合ってくれる?」
信じられない位に甘い声で囁かれて、私は小さく頷いてしまっていた。
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