笑みの向こう

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「俺のおやじ、誰」  僕の生まれた国は海の綺麗なところだったけれど、かつては平民はその恩恵に預かれなかった。海は王のものだったからだ。平民の海水浴などもってのほかで、漁師でさえ、漁に出るのに納税しなくてはならなかった。今から考えると信じられないけれど、二十年前まではそれが当たり前だったらしい。無血革命が起きて王は追い出される前までは。革命後はそれはそれは紆余曲折あって、ひところは王政時代の方がマシだった時もあったらしいが、今は何とか落ち着いてる。もっとも、国なんて古今東西誰かしらなにかしらやらかすものだから(と僕は世界史を習い出したときから常々思っている)この国だってあてにならない。でも一応は安定していて少なくとも僕はまあまあ不自由なく暮らしている。まあまあ、と言ったのは父親がいないせいで子供社会ではちょっと不自由だったからだ。いちいちからかわれる。でも、僕はそれを母さんに訴えたことがない。いちいちからかわれるのは不便だったけれど、僕は母さんとの暮らしに満足している。好きな子もいるし(当の彼女は僕のことを親友だと思っているのは不満だけど、これは僕が気持ちを伝えていないから仕方ない)友達もそこここいるし、父親のことでからかわれても自分で解決できた。でも、一二歳の誕生日に僕はそろそろ父親について聞いた方がいいと思った。もしかしたら母さんは僕が一五歳になったら父親について言うかもしれない(一五歳というのはなにかと節目の年だと言われるからね)だったら僕は先手を取って聞いた方がいいんじゃないか。節目の年に深刻な話をしたくない。前置きが長くなったけど、とにかく、だから僕は誕生日パーティーの次の日に聞いたんだ。世間話風にできるだけ軽く。それが冒頭のセリフ。 「自分で探してごらん」  僕の母親はやっぱりちょっと変わってる。普通、こういうときは「あなたも大人になったのだから言うべきよね」とか言いながら父親の正体について語るものではないだろうか(十二歳が大人かどうかは別として)もしくは困った顔で微笑み「いつか話すから」とか「そんなこと気にしなくていいの!」と怒鳴るとか。 「調べるってどうやって?」 「そこから考えるのが調査の醍醐味でしょうが」 「探偵小説と間違えてない?」 「あ、言い忘れてた。家捜し可!」 「貴重なヒントありがとう」 こんなライトな感じで父親探しが始まった。
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