十周年の星が降る!

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 ***  思えば。  どうせ誰も見てないのだからと、自分のプロフィールページでは暗い呟きばかり流してしまっていた気がするのだ。  新しい作品を投稿しても、“ぜひ読んでください”とさえ書き込めなかった。本当は読んで欲しいのに、読んでくださいなんてお願いするほど作品を面白くできている自信がなくて。読んだ人に“時間を返せ”と言われたらどうしようと不安で。ツイッターなどで宣伝ができなかったのも、つまりはそういう理由である。 『“クラウンの箱庭”を更新しました。ダークファンタジーです。女の子が酷い目に合う描写があるので、そういうものが苦手な人は閲覧をお控えください。』 『妄想コンテスト落ちました。まあ、当然ですよね……きっと面白くなかったんでしょうね、私以外には』 『“みかちゃんと一緒”を更新。ほっこりヒューマンドラマのつもりですが、ほっこりできなかったらごめんなさい』 『“黒歴史はどこへ消えた!?”という短編コメディをアップしてみました。寒いギャグです。私だけが楽しいのかもしれません』  きっと。  見ている人は、見ていたのだろう。そんな自信がない私を。自信がないし、臆病だけれど、それでも作品を書き続けていたい私のことを。アップをほぼ毎日続けていた私を。 『水内ナナさん、初めまして。昨夜は大量スター贈りまくちゃってすみません。きっとびっくりされたことでしょう(;´д`)』  私がメンションを贈ると。“マイマイ”さんはすぐにお返事をくれたのだった。 『本当はずっと前から、水内さんの作品をちょこちょこと見させていただいてたんです。本当はフォローしたかったんですが、私ってアンチが多いみたいなので……フォローしたら“迷惑だからやめてほしい”なんて言われちゃったこともあって。最近は全然新しい人をフォローできなかったんです。今まで水内さんのことも、ページをブクマして追いかけさせてもらってました。今後もどうしても水内さんの作品を追いかけ続けていたかったので、今回は思い切ってフォローさせていただきました。迷惑だったら言ってください、外しますので』  書籍化されていて、万単位のフォロワーもいるような人だとそういうこともあるらしい。確かにマイマイさんんは、フォロー数の方は三桁にとどまっていた。フォローしたくてもできない事情があったのは確かであるのだろう。 『水内さんの作品、どれもこれも面白かったんですけど、一番好きなのは“ネルソンの方舟”です。振り続ける雨をなんとかしようと頑張る天気予報士さん達の話が、まさかあんなオチで転がるとは思ってませんでした。あと“ヴィランの行軍”も好きですね。序盤から一気に恐怖に突き落とされる。挟まって死んでいく女の子の描写がリアリティありすぎて、画面の前で悲鳴を上げてしまいました。それから……』  きっと、この人もコミュニケーションはそんなに得意ではなかったのだろう。文章は長いが、とにかく感情のまま書き連ねているのが手に取るようにわかるのだ。  ただただ、一生懸命。伝えたくて伝えたくて仕方ない。それがわかる言葉の羅列。 『つぶやき、ずっと見てました。自信がなくなる気持ち、私もとってもよくわかります。今でこそ常勝扱いされてますけど、エブリスタに来てから最初に受賞できるまで一年くらいかかったんですよ。片っ端から応募して、二十一連敗しました。実は他の外部のコンテストも応募して、全部落ちてるんです。人気も全然なかったし、ダメダメだ自分ーとしか思えなくて』 『そうなんですか?すごく意外です』 『みんな、必ず一回はそうやってべっこんべっこんに落ち込むものだと思いますよ。スランプになっちゃうこともありますしね。……でも、それでも書き続けたから、今の私があるんです。全力で楽しんで書き続けたら、その事実は、作品は絶対に自分を裏切らないんですよ』  作品は、自分を裏切らない。  私はその言葉にはっとした。心のどこかで、思ってしまってはいなかっただろうか。こんだけ書いても評価されないなら、頑張っても意味なんかないのではないかと。評価されなかった作品は、全部ゴミにしかならなかったのではないか、と。費やした時間を、自分は自分で無駄にしてしまっただけなのではないかと――。 『私は、それを伝えたかったんです。無意味なことなんかない。頑張り続けたら、その頑張りは必ず誰かが見てくれている。実際、水内さんの頑張っているところ、一生懸命書いてる作品は“私”が見ていました。閲覧数、私だけが読んでるって数字じゃないでしょう?ならきっと、他にも見てる人はいます。面白いって思っている人もきっといます。だから、無駄だなんて、ごめんなさいなんて言わないで。ね?』  ぽろり、と。パソコンの前に落ちたのは、ひとしずくの涙。まるで星のように、部屋の電灯に照らされてきらりと光ったように見えた。  きっとこれは、小説に限ったことではないのだろう。  表立って評価されないことで、悩む人は少なからずいる。はっきりと目に見える結果がでなければ不安に思うのは当然だ。それでも。  無駄なことなんか、一つもない。  頑張り続けたら、必ず可能性の道は繋がっていく。趣味も、仕事も、そう思って楽しみ、あるいは戦い続けることができるとしたら。 『……マイマイさん、ありがとうございます』  十周年の星が降る夜。勇気をもって踏み出した一歩は、確かに今小さな実を結んでいる。 『よければ、私と、友達になってくれませんか』  私達の上で輝く星は、とても小さくてささやかだ。  それでもきっと、どんなお菓子よりも最高に甘くて、美味しいはずなのだ。
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