十周年の星が降る!

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十周年の星が降る!

『おおおお!凄いよ凄いよ!みんな星まみれだよー!!』 『十周年記念企画すっごーい!』 『一回ポチで十個スター送れるの!?すごくね!?』 『今からフォローしてる作者さん達に片っ端からポチってくるわ!!!』  小説投稿SNSエブリスタには、コミュニティ機能がある。  投稿SNSの数は多かれど、ここまで交流機能が充実したサイトは他にはないだろう。それぞれのユーザーが独自のコミュニティを作り、仲間を募り、雑談や創作論を語ってる場を設けている。WEB小説の世界で楽しむ者もプロを目指す者も、悩みを抱える人間は少なくない。エブリスタはコンテストの数も多いので、発表のたびに誰かは当然落選するし、お互いに“何が良くてダメだったのか”反省会をしたり、慰めたりできる場というものは重要だろう。  時には応募前の作品を見せ合い、さらなる改良を加えてより良いものにしていくという作業も可能である。  リアルでOLをしつつ、小説を書き始めた私が見ているコミュニティ“桜色の会”もまさにその一つだった。私自身はコミュニティに所属はしたものの、口下手(それこそ文字でチャットをする、書き込みをすることも含めてだ)なのでまだ殆ど皆と喋ったことはなかったりする。それでも所属しているのは、純粋に皆の創作論を見たり、話を聴いたりするのが好きだからだ。  桜色の会、には書籍化経験のある作家もいる。  コンテスト受賞常連者もいれば、特定のジャンルのランキング上位に常に食い込んでいる猛者もいる。  別に彼らは私のような、エブリスタ新参者が話しかけても怒ることはないだろうが――なんとなく、気後れしてしまうのも事実だった。話を見ているだけの方が正直気楽だ。ちょこちょこ参加を始めているコンテストで、いまだ全戦全敗だからというのもなくはないのだけれど。 ――十周年記念企画かあ。一回ポチするだけで、いつもなら一日一個しか送れないスターが十個も送れるのか。  私の周辺の作家達の周りも、読み専達の周りも、ここぞとばかりにスターを送りまくっているようだ。キラキラと降注ぐ星の数々が目に見えるかのようである。  三日間限定の素敵な企画。私も自分がフォローしている作者さんの作品、お気に入りの作品に、少しずつ星を押して行こうと決める。彼らは元々人気の作家なので、私がポチポチしなくても大きくランキングに影響が出たりなどはしないだろうが――それでも、気持ちというものは大事だ。面白い作品を読ませてくれてありがとう。スターという仕組みは、そういう感謝の気持ちもこめて押すものだと私は解釈している。 ――まあ……私のところに、お星様は殆ど来ないだろうけど。  ちらり、とページ上部の“通知”と書かれたベルのマークを見る。  小説を書き始めて一年足らず。エブリスタに来てまだ三ヶ月。コミュニティに登録しても書き込む勇気もなく、当然そんな私をフォローしてくれている人は数えるばかりしかいない状況だった。ほぼ毎日短編小説の投稿を続けてはいるものの、だからといってそうそう閲覧が伸びているわけでもない。通知、のベルマークに赤いポッチがつくのは、運営さんからのお知らせが入る時+αくらいなものだった。  せっかくのお祭り、自分も贈るのみならず贈られる側になったら楽しいだろうなとは思うけれど。残念ながら、そればかりは贈ってくれる奇特な人が現れない限りどうしようもないことである。 ――しょうがないよね。きっとベテランの書き手、読み手の人からすると……私の小説なんてまだまだ青臭くて、読めたもんじゃないんだろうし。  だからコンテストでも受賞できないし、閲覧そのものが殆どつかないのだろう。仕方ないことだ、実力がない私がいけないのだから。  私はコミュニティで、星を貰えたと喜んでいる作家達を横目に――小さくため息をつくと。その日はそのままブラウザを閉じたのだった。  自分が書きたいものを好きなように発表し、楽しく書き続けることができればそれでいい。そう思っていた。それなのにいつから自分は、受賞できなければダメ、誰かに見てもらえなければダメ、そんな考えが頭を過ぎるようになってしまったのだろう。  プロを目指しているわけでもなんでもない。趣味なのだから、好きに書ければそれで満足できてもいいはずなのに。 ――嫌な奴だな、私……。  誰だって自分が評価されたい、注目されたい、褒められたい。それは当然のことだ。でも。  それが目的になって初心を忘れてしまっては、なんの意味もない。頭ではわかっているのに、何故こんなにも心がもやもやしてたまらないのか。
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