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隣の席で過ごす最後の日なのに。
私は一度も足立くんの方に顔を向けなかったし、話もしなかった。
何度か足立くんが話しかけようとしている気配を感じたけど、
告白を見てしまったショックと、
ヒドイ顔を見られたくなかったので、
気付かないフリをした。
何とは言わなくても、あからさまに避けるような態度をとったから、きっと変に思っただろう。
『渡したいものがあるので、放課後美術準備室に来て欲しい』と、前日に伝えてあった。
それもキャンセルすれば良かったんだけど、その話をする勇気さえも、もう残ってはいなかった。
告白はもう出来ないけれど、一生懸命作ったプレゼントだけは渡したい。
放課後の美術準備室に一足早く行って、
入ってすぐの、一番目立つ机の上にそれを置いた。
透明の袋でラッピングした、グレーのハムスターのマスコット。
その首には、ハッピーバースデーと書いたブルーのリボンを巻いた。
きっと、気付いてくれるはず。
もらってくれるといいな。
せめて、これだけでも。
顔を合わせないように、急いで立ち去ろうと扉を開けた時だった。
ドンッ
入り口で、おでこに衝撃を感じる。
「あっ、ゴメン!」
頭上で聞こえた声に顔を上げかけると、
視界に『足立』と書かれた名札が映る。
ヤバい!もう来ちゃったんだ!
合わせる顔ないし、ニキビが出来てる顔も見られたくない!
「ごめんねっ!」
それだけ言って、足立くんの横をすり抜けようとしたけれど。
「えっ、どこ行くの?」
咄嗟に肩を掴まれて、前に進めない。
訳が分からないといった表情の足立くんが見えて、掴まれた肩から体温が伝わる。
「何かあった?」
俯く私を心配して、足立くんが顔を覗き込もうと屈んだ。
イヤだ!
こんな顔、絶対に見られたくない!
「やめて!!」
パシッ、と、
足立くんの手を振り払って、
ダッシュで美術準備室から逃げ出した。
それで終わり。
それが本当に終わりだった。
春休み明け、
足立くんとはクラスも階もすっかり離れてしまった。
代わりに、佐山さんは足立くんと同じクラスになった。
2人が付き合っているのかは、噂だけではっきりは分からなかったけど、
2人で喋ってる姿は何度か遠目に見かけたから、きっと付き合ってるんだろうと思った。
それから卒業まで、
私が足立くんと喋ることは一度もなく。
そのまま高校も別になり、今に至ってしまう。
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