羊くんの恋とその顛末について

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 例えば。僕にもう少し男っぽさがあったら、彼女は振り向いてくれるのだろうか。  キーボードを叩く指がふと止まり、黒いモニターに反射して映る自分の顔を見つめる。  僕はかなり色白だ。女の子なら歓迎されるだろうけれど、性格暗めな僕の場合、なんだか弱そうに見えてしまう気がする。  それに反して髪の毛は超がつく剛毛で天然パーマ。なぜか上に向かって伸びていく。ちょっと切らないと入道雲みたいな髪型になるからこまめにカットをしているけれど、オシャレな髪型なんて望めない。とりあえず切るだけ。  ふう、とため息をついて、軽く首を振る。いままで自分の容姿なんて気にしなかった。いや、気にしないようにしていた、という方が正しいかもしれない。  人生諦観モード。影で羊くんなんて、あだ名を付けられていることも知ってる。髪の毛が羊みたいだから。そのうえ典型的草食系で可もなく不可もないキャラゆえ、そう名付けられたらしい。それも仕方ないと諦めていた。  だけど。彼女の存在が、羊モードから、恋する生身の男モードに僕のギアを入れてしまった。ちらりと隣の席でキーボードを叩いている、彼女を盗み見る。  園田美佳(そのだみか)。26歳。同じ営業本部第2課の同僚。6歳年下。  彼女は僕に対して、いや誰に対してもだけれど、とても感じがいい。  目尻がほんの少し下がった優しい顔立ち。笑うとその目尻がさらに下がって、ふにゃっと崩れると、こちらの心臓までふにゃっとして鼓動がとまりそうになる。  その笑顔をみていると、自然と優しい気持ちになってしまう。勝手にこちらまで笑顔になっている。いつでもそうやって笑って欲しい。できれば僕の傍で。  小さな好意が、恋に変わるのに時間は掛からなかった。
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