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「お父さん、そこの時計、電池、切れたみたい。変えてくれる?」
帰宅後、着替えを終えた主人にそう声を掛ける。
「いいけど、電池どこ?」
「そこの3段目の引き出しにあるはず」
主人は引き出しから電池を出すと、背伸びをして壁に掛かった時計を外す。
結婚して20年以上経ち、私たちは、家族というより空気のような存在になった。
子供も2人とも遠方の大学に進学し、久しぶりに2人きりの生活に戻ったが、妙に気まずい。
子供がいないと、会話の取っ掛かりもなく、必要事項以外、全然、会話がない。
だから、最近の我が家は、私がテレビを見て笑う以外は、ずっと沈黙に包まれている。
「あ、明日、弁当いらないから」
主人が思い出したように告げる。
「そうなの? 明日は肉じゃがにしようと思ったのに」
私は、晩ごはんにしては大目に作った肉じゃがの鍋を返しながら答える。肉じゃがは、主人の大好物なんだけど。
「いいよ。今夜、たくさん食べるから」
主人は、宣言通り、大量にあった肉じゃがを全部平らげた。少しくらい朝ごはんに残しておけばいいのに。
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