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校舎の外に出ると、濃い灰色の雲が垂れ込めていた。風の中に雨の匂いが混ざっている。
校庭では野球部とサッカー部が片付けをしている。もう部活も終わる時間か、と少し足早に校門を出る。
「荒川」
声をかけられて振り返ると、片思いの相手……小嶋諭が立っていた。
三年生で同じクラスになってから、クラスの中心的存在の彼が気になるようになり、気がつけば目で追うことが多くなっていた。
決定的だったのは体育の授業でバスケをやったとき。ブザービーターのごとくチャイムと同時に決めたロングシュートに、恋に落ちたのは私だけじゃなかったはず。
「小嶋くん、ずいぶん遅くまで残ってたんだね」
「高田先生とずっと話してた。荒川は?」
「私は、図書委員の仕事で」
「図書委員か、大変だな。家どっち?」
「大通り出て、左に折れてからスーパーの方」
「じゃあ途中まで一緒だな。俺んち、スーパーの手前の小児科のところで脇道入るから」
そう言うと小嶋くんは歩き出した。少し歩くと振り返り、ついてこない私を見てちょっと不思議そうな顔で「何してんだよ、帰ろうぜ。途中まで一緒だろ?」と言った。
心臓が、煩い。急激に聴覚過敏になった気分だ。
無理。
無理。
無理。
心の中に「無理」が溢れる。片想いの人と一緒に帰る、なんて少女漫画でもこんな展開、ベタすぎて引く。
小嶋くんが私を待っているって思うだけで、全身がカッと熱くなる。
体育のときに制汗スプレーをガッシガシに使っておいて良かった……そんなことを思いながら、前を歩く小嶋くんの背中を追いかけた。
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