送り梅雨〜荒川美桜〜

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 商店街を抜け、大通りに向かう間はほとんど喋らず。最初に口を開いたのは、小嶋くんだった。 「荒川、進路決めた?」 「うん。国立大学受ける予定」 「そっか」  歩く速さを私に合わせてくれていることに気がついた。横に並ぶと、いやでも小嶋くんの背の高さを意識する。  身長、きっと175は超えてる。足、長いなぁ……私の身長が160だから、15センチの差は足の長さの差に直結するだろうか。  見上げると、モデル並みに小さな顔が「ん?」という感じでこちらに振り向いた。 「小嶋くんは進路どうするの」 「ん〜……」  彼くらいの成績なら、国立大学……それもおそらく、あそこだろうな、という予測は容易に立つ。だから言い淀んだことが正直、意外だった。 「やりたいことがあんだよなぁ……。親とも話さないとなんだけどさ、俺んち、親父がずっと単身赴任で夏休みまで戻ってこないからさ」 「電話とかじゃダメなの?」 「顔見て話したいじゃん、こういうの」 「そっか」  今まで話したことがなかったから、小嶋くんのことをよく知らなかったけど。そうか、お父さん単身赴任なんだ……と、思う。 「あ、やべ! 降って来た!」  大粒の雨がぽたり、ぽたりと落ちてきて、瞬く間に土砂降りになった。 「行くぞ!」  不意に手を掴まれ、その強い力に一瞬怯えた。その怯えが伝わったのかわからないけど、小嶋くんはすぐに手を離し「あのビルまで走るぞ!」と、数十メートル先のビルを示した。考える暇もなく、雨に追われて走りだす。  今、手……繋いだよね? 男の子と手を繋いだのなんて、小学生以来かも……。
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