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ビルの軒先に走り込むと同時に空が光り、少しの間を置いて遠くから雷の鳴る低い音が聞こえた。
「雨すげぇな。びっしょびしょ」
「うん」
意味なく照れてしまい、顔を見れなくて下を向いたまま制服のスカートをはたくと水しぶきが跳ねた。
「これ使えよ」
「いいよ、小嶋くん拭きなよ」
「いいって。女子は体冷やしちゃダメなんだろ? 早く拭けよ」
小嶋くんのその言葉にまた赤面する。女子として見られてることが、嬉しい。おずおずと出した手に、小嶋くんがスポーツタオルを押し付ける。
「ありがとう、ごめんね」
さっと制服を拭いたタオルを折りたたんで返すと、小嶋くんはちらりと私を見ると、頭にタオルを投げた。
「髪、拭けてないじゃん。ちゃんと拭きな」
彼の親切に甘え、そっと髪を拭く。拭きながら、髪の毛つけちゃまずいよね、と思う。
「荒川、今更だけど傘持ってないんだよな?」
「あ……うん」
家を出る時、母に「傘持っていきなさい」と言われたことを思い出した。言うこと聞いて折りたたみ傘を持ってくれば良かった、と軽く後悔する。
「小降りになるまでここにいるか」
ふう、と小嶋くんが軽く息をつく。
「なぁ、荒川」
「な、なに?」
「大学行くだけが、人生じゃないよな……」
私に言う、というよりは自分に言い聞かせるように言ったその声に、なんて返事をすればいいのか分からなくて、しばらくの間、黙った。
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