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再び目を開けると、そこは見慣れた場所だった。暗い道。首のない人間たち。地面のあちこちに無造作に転がる生首。
薬を飲んでも、この夢から逃れることはできないのか。
思わず、その場に蹲った。
「もう、どうしたらいいの……」
自然と涙がこぼれた。
それが地面に小さな水溜まりを作り始めた頃、頭上から声が降ってきた。
「なぁに泣いてんの?」
そこに立っていたのは、一人の男性だった。
水色の髪に、ひょうひょうとした態度。一言で表すならチャラ男というのが今のところ一番適切そうに見える。
今まで一度も見たことがない人だ──!
なんでここに? とか、誰? とかそんな疑問が頭をよぎったが、今の私にはそれよりもはるかに気になることがあった。
「首が、ある」
「あるよぉ」
私に不躾に首を触られても男性は嫌がるそぶりもなく、されるがままにしていた。
そして私の顔を見て、微笑んだ。
「あんたがこの夢の夢主だね」
「……夢……主?」
聞き慣れぬ言葉に私は顔をしかめた。
チャラ男はニッと笑う。
「この夢、楽しい?」
「そんなわけないでしょ!?」
間髪いれず答えた。こんな夢みたくないから薬まで飲んだのに。憤慨だ。
楽しい? アホか? アホなのか?
「心の中で言ってるつもりかもしんないけど、思いっきし声に出てるよ」
呆れた顔で指摘され、ハッと口を抑えたが、すぐに手を離した。何を言ってしまおうが、これは夢なんだから、と。
チャラ男はうんうんと頷いて笑った。
「じゃ、交渉もいらないみたいだし、この夢もらうよ」
「夢を…もらう?」
「そ!」
チャラ男がおもむろに私の手を握り、勢いよく引いた。バランスを崩した体はそのままチャラ男の胸に収まる。
「俺はバク!人間の夢が大好物なのさ!」
だから、とチャラ男は続ける。
「あんたの夢、食わせてもらうよ」
と、言われても。
状況が全く呑み込めない。けれど漠然とした期待が胸に湧いた。この夢を食べてもらえば、もう悩まなくていいかもしれない。そんな、悲願にも似た期待が。
しかし、眼前の軽薄な笑みでそれが半減したのは言うまでもない。
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