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空に滲んだ淡い炎だった。
ビルの隙間から街をほの暗く包み込む。
足元に伸びる影が朧気に揺蕩う。
地平線に口づけする太陽が姿を隠す向こう側。
街に差し込む哀愁は雑踏のせわしなさにかき消された。
その足取りに胸が痒くなる思い出を覗くような時間だ。
急かすような寂しさにいつもの道を逸れ建物の影を縫う。
身を捩って人の間を抜けるとビルと一体の駅へ着く。
普段の電車ではなく一つ上の階から延びる廊下へ向かう。
踊り場に設けられた窓に赤い闇が染みていた。
広間に出ても変わらぬ人混みを掻き分けてひた歩く。
耳を撫でる心地いい音が踊りだしたのはその時だった。
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