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   手すりの錆びた階段を下りて、アパートの前の脇道を歩いていくと、小さな竹林がある。武蔵野の面影を残すプロジェクトとかで、辺りには雑木林も点在したりして、田舎風情を演出している地域なのだ。  竹林沿いの道路を抜けた先に、国道や町の灯が見渡せる高台があった。東側には東京都庁ビルも見える。  夜九時半をまわっているにもかかわらず、高台には子供から年寄りまで多くの人たちが集まっていた。みんな和気あいあいと星の話に夢中になっている。  夜空は晴れわたり、あまたの星が満天を彩っていた。東京には珍しい星空だった。  ペルセウス座流星群とオリオン座流星群のダブル天体ショーがこれから始まるのだ。みんな今か今かと待ちわびている。  僕は用意してきたピクニックシートを広げた。    東の空を淡い刷毛で掃いたような光の筋が、すっと、走った。  一筋が夜空を裂くと、立て続けに星が流れた。あちらこちらから、歓声が響く。  最後のデートが、流星群観察とは笑ってしまうが、留美は真剣だったようだ。流れ星に願い事を祈る風習に便乗して、「ニューヨーク画廊の夢が叶いますように!」と、留美は幾度も繰り返している。  僕も負けずに「留美が戻ってきますように、一緒になれるように!」  秋の夜長を楽しむショーが三十分ほど経過した頃だろうか。  穏やかな歓声が、悲鳴に似たどよめきに変わった。  突如、東の空に、太陽のような強烈な光芒が出現したのだ。それは肉眼で捉えられないほど眩しくはなかったけど、満月の月光より数倍は明るかった。  オリオン座アルファ星ベテルギウスが異妖な光の玉となって夜空を焦がした。    僕は、即座のあの文言を思い出した。  <赤きつづみぼし いとひかりたまう>  どうやら、石碑に刻まれた予言は的中したらしい。  赤きとは、ベテルギウスのことだろう。            
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