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廃村の、したたかな息吹・・・
薄墨色の柱が生けるもののように初秋の空を背景に立っていた。石をのせた板屋根の連なりのはざまから、干物を焼く匂いが漂ってくる。
そんなはずはなかった。
僕はまぼろしに翻弄されていた。
森の中を歩いた。
そのあたりには昔、参道があり、神社あったという。
参道は熊笹に覆われていたけど、足の裏に石畳の感触がたしかに伝わってきた。
そのモノリスような碑は、今もなお、数百年の月日にさらされながら藪の奥にひっそりと遺っていた。
新潟県阿賀郡赤牟村所蔵の古文書によれば、水神様を祀る鼓星神社が寛永十五年に創建され、安政五年に火事で焼失しており、唯一残存したのが石碑だと記されていた。
——赤きつづみぼし いとひかりたまふとき
汝 いにしへの水がみち たどりたまへ——
そう刻まれているらしいが、ぼろぼろになったひっかき傷にしか見えない。
つづみぼしとは、オリオン座の和名だ。オリオン座に異変が起きたら、水の道を辿れという意味だろうか。
僕はフンと鼻を鳴らした。アホらしいけど、意味深な文面ではある・・・
重機の駆動音が響いてきた。廃村復活プロジェクトが全国的規模で動きだしており、赤牟村もその例外ではなかった。
僕と僕の両親は、この地に露店風呂付のオーベルジュを立ち上げようとしていた。
その日のうちに、僕は東京へ戻った。
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