前編:棒付きキャンディの彼

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 駅前の交差点を渡り右に折れると、金曜日に残してきた仕事を思い返しながら歩いていく。いつもの道。週をまたいだ程度では景色に変化はない。ぼんやりと、ただただ前方を見て歩いていたら、一人の男性の後姿に目がいった。  この人、いいなぁ。  明確な言葉にはならないくらいの感覚で、そう思う。  身長は、ちょっと高め。180センチは確実に超えている。細身で、腰が小さくて引き締まっている。背が高くて細身だと栄養不良な感じがして好きではないのだけれど、この人の場合は違っていた。しなやかな感じ。そう思わせるのは、ゆったりとした歩き方のせいなのかな。  その身長のせいで歩幅が大きくあっという間に進むから、つられて私も遅れないようにと心持ち足早になってしまう。いつもの憂鬱な道なのに、なんだか楽しくなってきた。  年齢は、どのくらいだろう。スーツのパンツが腰ではく系のデザインで、シャツが細いボーダー柄。この選択は、まだ若い。でも初々しい感じがしないのは、その着慣れた身のこなしのせい。私と同じ年齢くらい。いって三十代手前、というところ。まだそんなにはくたびれていない、いまどきのサラリーマン。
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