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03 - おしゃカレー
固く閉じた瞼の裏にチカチカと眩しい西陽が揺れて、私は「ううん……」と身じろぐ。ぱちり。瞳を開ければ、窓から差し込む夕焼けに照らされて、橙色に色付いた殺風景な自分の部屋が視界に映った。
木目調の天井に、色褪せた襖、和室6畳間。そこに薄い布団を敷いただけで、あとは小さなダンボール以外何も無い。それが、今の私の部屋。
一応間取りは1DKだから、襖の奥にも部屋はある。けれどそちらも状況は似たようなもので、飲み物を冷やすためだけのこじんまりとした冷蔵庫と、中古で購入した古い洗濯機が廊下に置いてあるぐらい。そんな状態のまま、結局1ヶ月が経過してしまったわけで。
(テレビが無くても、案外暮らしていけるものなんだなぁ)
一人暮らしを始めてから学んだ新事実はそれだったりする。あって当たり前だったからテレビの無い生活など以前は想像も出来なかったが、無くなってみれば別に苦ではなかった。
今年の3月から住み始めたこのアパートは、築年数60年ととてつもなく古く、リノベーションされているわけでもないし立地も悪いかなりの格安おんぼろアパートである。敷金礼金無し、水道代まで込で、月々の家賃はたったの2万円弱。
でも実は事故物件で幽霊が出る噂なんかもあるらしく、本当にここでいいのかと不動産屋さんには何度か問いかけられた。けれど、当時の私はそんな事すら気にしている余裕も無くて、幽霊を怖がりながらもここに即決せざるを得なかったわけで。
(……まあでも、色々あって、結局このままダラダラ過ごしてるわけだけど……)
はあ、と溜息を吐きながら項垂れてしまう。1ヶ月前の私が見たら失望するんだろうな。何やってるの、話が違う、って。
私は徐ろに布団から立ち上がり、ダンボールの中に手を伸ばした。
鉛筆、スケッチブック、ノート、……色々あるけれど、それらを全部無視して一番奥に眠っているものを掴み取る。
ずっしりと重たい、一眼レフのカメラ。私はカチ、とゆっくり電源ボタンを押して、ダイヤルを「再生」に合わせた。
保存されている写真のデータ数として表示された数字は、「1」。たった1枚、大きなカメラの中に保存されているその写真をそっと再生して、私は苦々しく微笑んだ。
「……ごめんね」
呟いた声が、静寂に包まれた部屋の中で痛いぐらい鮮明に耳に届く。私はカメラの電源を切り、それを静かに畳の上に置いて、立ち上がった。
* * *
「あ、ハナコ」
「……あ……」
少しぐらい外に出ようと扉を開けたら、丁度203号室の前で恭介さんが煙草を吸っていた。こんにちは、と声を掛けようとしたところで、彼が通話中だと気付き慌てて口を閉じる。彼は短くなった煙草の灰をトントンと落としながら、電話の向こうの相手に口を開いた。
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