03 - おしゃカレー

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「……あ? ……いや、こっちの話。つーか俺、その件は断っただろ。今更文句言われても困るんだけど」 『……、……』 「ああ? 行かねーよ、バーカ! 勝手に怒られろ、俺は知らねー」 「……?」  どうやら、彼は通話している相手と揉めているらしい。苛立ったように煙草に口を付けるその姿を怖々と眺めて、私はとりあえず部屋の鍵を閉めた。その間も、彼は通話相手と口論を続けている。 「とにかく、俺は行かねーから。他のやつ誘えよ」 『……! …………!』 「知るか。じゃあな、切るぞ」 『……~!! ……──』  タンッ。  苛立ちの込められた指先で乱暴に画面をタップし、彼は不機嫌そうに通話を終える。短くなった煙草をぐりぐりと携帯灰皿に押し付け、煙を吐いた頃になってようやく、彼は私に視線を向けた。 「……あー、ごめん。ちょっとうるせー奴から電話来ててさ」 「お、お友達ですか?」 「まあ、そんな感じ。同じサークルの」  サークル。何気なく零れ出た単語で、ああ、やっぱり大学生なんだ、と私は一人納得した。  だとすれば、大学のお友達からの電話だったのだろう。何かに誘われているのを断った風だったが、よっぽど嫌な集まりに誘われたのだろうか。 「……揉めてましたけど、大丈夫だったんですか?」  何気なく問えば、彼は「あー、全然大丈夫」と吐きこぼす。 「今夜、先輩が幹事してる合コンがあるんだけどさ、それの人数が足りねーんだと。で、今の電話の奴が俺のこと勝手に参加するって先輩に言ったらしくて。断ったら泣き付いてきてマジでしつこいし、くっそ面倒くせー」 「あ、あぁ……合コン……」  馴染みの無い単語に、自然と苦笑が漏れた。  つい最近まで女子高生だった私にとって、合コンとかサークルとか、そういうのはなんだか未知の世界の話でいまいちピンと来ない。  首を傾げている私の反応に気が付いたのか、恭介さんは「あー、ごめん」と失笑する。 「いきなり愚痴られても、そりゃ反応に困るわな。忘れて。ごめん」 「あ、い、いえ。……あんまり行かないんですね、合コンとか」 「……まあ、行く時は行くけど。今は別に出会いとか欲しくねーし……そもそもロクな女来ねーんだよ、いつも」  そう言って、彼はうんざりした顔で遠くを見つめた。  どうやらよほど嫌な思い出があるらしい。深く追及するのはやめておこう。 (合コンかあ……。一生行かないんだろうなあ……)  ああいうのは、私のようなパッとしない女が行くものではない。もっとキラキラした、可愛い女の子が行くものなのだ。多分。  そう考えると、自分のパッとしない見た目が酷く惨めに思えて、自然と溜息がこぼれてしまった。栗色の前髪は眉上まで切っちゃったせいで短すぎるし、顎のラインまでの不揃いな後ろ髪は毛先がバラバラでめちゃくちゃ。化粧だってしていないし、ネイルも塗っていない。  あーあ、パッとしないな。
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