03 - おしゃカレー

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 いつもの挨拶が交わされて、約束通り「晩ご飯」の時間が始まる。私はカトラリーケースの中からスプーンを取り出し、恐る恐るとお洒落なキーマカレーを口に運んだ。  当然、私の口からこぼれるのはこの一言。 「おいしい……!」 「辛いの平気?」 「あ、あんまり得意ではないですけど、この程度なら大丈夫です……! 美味しいです……! オシャカレーです……!」 「オシャカレー? なんだそりゃ」  はは、と笑う彼の猫みたいな目がふにゃりと細められる。普段は怖そうで機嫌が悪そうに見えるその顔は、笑うとなんだか少年みたいで少し可愛い。口が裂けても本人には言えないけれど。 「なんか、私の知ってるカレーじゃないみたい。初めて食べるカレーです」 「そ? ……まあ、スパイスとかめっちゃ入ってるしな。ガラムマサラ、コリアンダー、ローリエ、ターメリック、エルブドプロバンス……」 「え、える……? 何……?」  魔女の呪文みたいな単語を指折り数えて行く彼に小首を傾げるが、とにかく色々入っているということは理解した。私の知っているカレーの作り方なんて、野菜とお肉を油で炒めて、お水を入れて煮込んで、市販のカレールーを入れて……はい終わり。そこで完結している。 「カレーって、奥深いんですね」 「お、よく気付いたな。そうなんだよ。俺、カレーが食い物の中で一番好きかもしんね」  珍しく瞳を輝かせて、恭介さんはそう語る。それって食べる方が好きって意味なのかな、それとも作る方が好きって意味なのかな。なんだかどっちもって答えられそうだけれど。  とりあえず私は美味しいカレーをもう一口、口元に運びながらこくんと彼に頷いておいた。 「私も、恭介さんのカレー好きですよ」 「オシャカレー?」 「あ、バカにしてるでしょ……」 「さあー、どうだろうな」  くすくすと笑って、彼はまたカレーに口をつける。私はむすっと頬を膨らませながら、今度は白いお皿に盛られたピクルスを取り箸で掴み、カレーの上にぽとんと落とした。カレーのお供、といえば福神漬けだけれど。彼によって漬け込まれたキュウリとアスパラのピクルスは、そんな固定概念を覆すほどにキーマカレーとベストマッチしていて。 「あ、すごい合う!」  程よい酸味とスパイシーなカレーの組み合わせに瞳を輝かせれば、「だろ?」と得意げに恭介さんが微笑んだ。 「結構ランチの店では出てくるぜ。カレーとピクルス」 「へええ。私、お家でしかカレー食べないから知らなかったです」 「マジで? もったいねーな」 「……いいもん。福神漬けも好きだもん」
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