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少し拗ねながらカレーをもりもりと食べ進める。キノコの歯ごたえと、とろとろナスの溶け具合が絶妙で、あっという間にカレーはお腹の中に収まってしまった。もちろん付け合わせのサラダやクミンポテトも最高にマッチしていて、これまたぺろりと即完食。
すっかり空っぽになってしまったお皿をじっと見つめていれば、恭介さんは小さく笑って立ち上がる。
「おかわりどれくらい?」
「ご飯は普通で、ちょ、ちょっと、ルー多めに……」
「はいはい。オシャカレー多めね」
「オシャカレーいじりはやめてくださいっ」
もう! と声を荒らげる私の訴えをへらへらと楽しそうに受け流して、彼は空になったお皿を取り上げるとキッチンの方へ歩いて行く。冷たい麦茶を喉に流し込み、アスパラのピクルスをぱくりと摘まみながら、私はカレーが蓄えられているであろうお腹をそっと撫でた。
だんだんお腹が満たされて行くこの感覚が、なんだかこそばゆい。こんな予定じゃなかったのに、と今更考えたところで、約束してしまったものはしょうがないんだけれど。
ぐるぐるぐる、と今しがた流し込まれたカレーの消化活動が始まったのか、胃の奥が小さく音を立てているのが分かる。人間の体って不思議だな、なんでお腹って空くんだろう。というかなんで私、誰かとご飯なんか食べてるんだろう。なんで誰かと食べるご飯って、こんなにおいしいんだろう。
(あの日、恭介さんに会ってなかったら、私……)
今頃、ひとりでどこにいたのかな。
そんなことを考えていたら、ことん、と目の前にカレーが置かれた。
「はい、ルー多め」
「……」
「……ん? 何? 多すぎた?」
じっと黙って見上げた私に、彼の訝しげな視線が向けられる。カレーはほかほかと湯気を立てて、やっぱり美味しそうな香りを放っていた。
「……いえ! 食べきれます!」
「マジ? 無理すんなよ?」
「はい!」
私はにこりと微笑んで、再びスプーンを握り締める。
──もしも、あの時、彼と出会っていなかったら。
そんな「もしも」の世界の私のことなんて、今更考えても仕方がない。とりあえず今は、彼の優しい“約束”に甘えるしかないんだから。
あと、5ヶ月は。
「んーっ、美味しい!」
「へえ、オシャカレーが?」
「もう! しつこいですっ!」
「ははっ」
〈本日の晩ご飯/キーマカレー〉
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