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04 - お花見サンドイッチ
「花見行こうぜ」
西陽が眩しい午後6時30分。ピンポン、と珍しく鳴らされたインターホンに導かれるまま玄関の扉を開けると、その先で待ち構えていた彼が開口一番そんなことを言い放った。私はぽかん、と口を開き、「はなみ……?」とつい聞き返してしまう。
「そ、花見。今夜の飯は外だ。行くぞ」
「え、え、あのっ、急にそんなこと言われても……!」
「急にじゃねーよ」
突然の提案にわたわたと慌てる私だったが、目の前の彼が眉を顰めて不服げにこぼした事でぎくりと背筋に嫌な汗が流れた。彼はポケットの中からスマホを取り出し、メッセージアプリの画面が表示されたそれを私の目の前に突き付ける。
『今日、花見行くから。6時半ぐらいに迎えに行く。用意しといて』
「…………」
どうやら今日の昼頃に送信されていたらしいその文章は、いまだ「既読」の表示が付かず未読のまま。私はだらだらと冷たい汗が背筋に流れて行くのを感じながら視線を逸らした。
「……すみません……」
「いや、これ何回目だよ。連絡つかないのマジで困るんだけど」
「う……そ、その、スマホの電源、いつも切ってるので……」
どぎまぎとぎこちなく微笑みながら言い訳を述べてみるが、彼の視線はじとりと訝しげにこちらを見下ろしていて。ううう、と私は気まずさからつい身を縮こめてしまう。
そんな私の様子に恭介さんは小さく溜息を吐き出し、突き付けていたスマホをポケットの中に戻した。
「……わかったわかった。別に怒ってねーから、さっさと準備して来い。スウェットのまんまじゃ行けねーだろ」
「は、はい……少々お待ちください……」
私はどぎまぎと視線を泳がせたまま、恐る恐ると返事を返して静かに玄関の扉を閉める。静まり返った部屋の中、私は慌ただしく外行きの準備を始めたのであった。
* * *
そんなやり取りから数十分後。着替えと化粧を済ませ、慌ただしく外へ出て来た私を出迎えたのは短くなったセブンスターの煙草を吸っている彼の驚いたような表情だった。
「……へえー、珍し。化粧とか出来たんだな」
「で、出来ますよぅ……」
ファンデーションと眉マスカラと、色付きのリップを塗っただけだけど……。
物珍しげにまじまじと凝視して来る恭介さんの視線に、つい顔が熱くなって私は俯く。「あ、あんまり見ないで……」と消え去りそうな声で吐きこぼせば、面白がって更にジロジロと凝視された。本当に意地が悪い……。
「ふーん、いいじゃん。うっすらメイクするだけでも印象って変わるな」
「……そ、そうですか? 変じゃない……?」
「うん。可愛い可愛い」
「か……!?」
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