04 - お花見サンドイッチ

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 私は表情を強張らせ、ぎゅっとトレーナーの裾を握り締める。ヤンキーとか酔っ払いとか、そういう類の人達は少し苦手だ。……ヤンキーっぽい見た目のお隣さんと毎日一緒に晩ご飯を食べて、居酒屋でバイトをしている私が言うのも変な話だけれども。  そんなことを考えている間にお日様は山に隠れてしまったのか、周囲の景色が薄暗くなる。まばらに点在する街灯が少しずつ光を灯し始めたのを確認した頃、目の前にひらりと桃色の花びらが舞った。 「……あ、桜……」  私が呟いた直後、不意に彼がその足を止める。そのまま苦い表情で黙りこくってしまった彼の視線の先には、目的地である例の河川敷。  想像していたよりも随分と大きな川だ。枝垂れるように伸びた桜の木はライトアップされ、水面がキラキラと美しく輝いている。  ──まあ、肝心の桜に至っては、完全に散っていたわけだが。 「……」 「……散ってますね」 「あー、くそ、やっぱ先週がピークだったか……。今年は暖かかったから、全国的に開花が早いってニュースで言ってたもんな」  ガシガシと後頭部を掻きながら、彼は苦々しく吐きこぼす。そうなんだ、今年って暖かかったんだ。その情報すらも、私はたった今初めて耳にしていた。  よくよく考えてみれば──私は桜どころか、今の世の中の情報を、ほとんど何も知らない。テレビもスマホも見ていないから、仕方ないのだけれど。 「……どうする?」  不意に横から言葉が掛けられ、私は顔を上げる。バツが悪そうに桜の枝葉を見つめている彼の背中には、黒いリュックが背負われていた。 (多分、レジャーシートとか……色々入れてきてくれたんだろうなあ……)  花見のために準備していたであろう彼の心境を思うと居た堪れなくなってしまい、私は出来うる限りの明るい声を返した。 「せ、せっかく来たんですし、お花見しましょうよ」 「……どう見ても花散ってんだけど?」 「す、少しは残ってますよ! ……多分」 「多分て」  呆れ顔の恭介さんに「絶対! 絶対大丈夫だから!」と負けじと食い下がってみれば、彼は暫く黙り込んだ。が、やがて「……まあいいか」と呟くと、再び私の前を歩き出す。勝った! と内心ガッツポーズを取りながら私もその横に並び、橋の上を歩き出せば──ふと、道路脇に溜まる桜の花弁が目に止まった。  カラカラに乾いて、すっかり茶色くなってしまった桜の花弁。寄せ固まったその山を、私はじっと見つめて口を噤む。 「……」  美しく咲き誇っている時には、綺麗、綺麗、と持て(はや)されているのに。その役目が終わったら、こんなにも冷たい道路の端っこに追いやられて、誰にも見てもらえない。  そんな桜の花びら達が、なんだか自分と重なって見えてしまって。  私はぴたりと足を止めた。
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