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枝垂れた枝葉を仰ぎつつ、河川敷にレジャーシートを敷いた二人は横一列に並んで腰を下ろしていた。グリーンのレジャーシートは二人で座るとほとんど隙間が無いほどに小さく、恭介さんは顎に手を当て、「やっぱ二人じゃ狭かったか」と真顔で言い放つ。
それ、もっと早く気付けなかったんですか? と内心少し呆れながら、私は目の前で枝葉を広げる桜の木を見上げていた。
桜が散ってしまったせいか、河川敷に人の姿はほとんど見当たらない。恭介さんによると、満開の時期は普段の閑散ぶりが嘘のように人で溢れかえるんだそうだ。あんまり人混みは好きじゃないから、この程度の静けさでちょうどいいな、と私はこっそり安心してみたり。
「チッ、屋台も出てねーのか。失敗したな……」
「屋台も出るんですか? いつもは」
「そう。それ買って食うつもりだったから、今日のメシは大したもん作ってないんだよな……あー、失敗した」
はあ、と盛大に溜息を吐きこぼし、彼は苦々しく頭を抱えている。屋台を頼りに来たとは言いつつ、やはり何か作ってくれているらしい。そんなに気負わなくてもいいのに、とは思ったが、そう言うとまた「気負ってるわけじゃねえよ、好きでやってんの!」と怒られてしまうだろうから口には出さないでおいた。
恭介さんは背後に置いていたリュックをガサゴソと漁り、お洒落なタッパーを取り出すと徐ろに蓋を開く。その中に、所狭しと詰め込まれていたのは、彩鮮やかなサンドイッチだった。
「わー! 可愛い!」
「……料理に可愛いってどういうことだよ。女って何でも可愛いって言うよな……」
彼は呆れたように言い、おしぼりと紙皿を私に手渡す。おしぼりまで用意してるなんて、どこまで女子力高いんだろう。合コンとか行ったらどの女の子よりも率先してみんなの分のサラダとか取り分けてくれそう。それって良いのか悪いのか、ちょっとよくわかんないけど。
なんて余計なことを考えていたのがバレたのか、彼は訝しげに目を細めて「何だよ……」と低音をこぼした。怒らせるのはまずいので、私はへらりと笑って誤魔化しながらおしぼりの袋を開ける。冷たくも温くもないおしぼりで手を拭いて、ぎゅうぎゅうに詰め込まれたサンドイッチをじっと上から見下ろした。
トマト、レタス、ハム、卵、カツ……色々種類があって、迷ってしまう。
「全部恭介さんが作ったんですか?」
「うん」
「すごい!」
「……サンドイッチなんて、具材切ってパンに挟む作業がほとんどだぞ。一部以外は、そこまで手の込んだもん作ってない」
素直に褒めれば、彼はふい、と目を逸らして首の後ろを掻いた。彼は照れると目を合わせてくれない節があるから、多分この素っ気ない態度も照れ隠しだと思う。
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