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「……あーあ、屋台の焼きそば食いたかったな。あとタコ焼き」
残念そうに吐きこぼした彼の隣で、ようやく最後のサンドイッチを飲み込んだ。名残惜しそうな彼の瞳の先には、おそらく数日前まで出店が並んでいたであろう、閑散とした河川敷。
「焼きそば、好きなんですか?」
「いや、別に好きでも嫌いでもねーけどさ。祭りとかで売ってる焼きそばって、なぜかやたら美味く感じるじゃん? あの雰囲気が好きなんだよ」
「ふうん……?」
彼の言い分には、確かに一理ある。けれど、たとえば今日、この場に焼きそばの出店が並んでいたとして。それを購入して食べたとして。果たしてその雰囲気だけで、私は「美味しい」と感じることが出来たのだろうか。
……だって、そんなものよりも。
「……私は、恭介さんの作ったサンドイッチの方が、好きですけど……」
「…………」
ぽろりと本音を口に出せば、こちらを見る彼の目がまんまると見開かれた。その後戸惑ったようにその視線が泳ぎ、ゆるゆると逸れて、彼の顔は明後日の方向を向く。
「……バカ、お前……。そういう不意打ちは、ずるいだろ……」
顔を逸らしたまま首元を掻いて、彼はぽつりと呟いた。ピアスの付いた耳がほんのりと赤く染まっているのは、きっとライトアップの光のせいではないだろう。
最大級に決まりの悪そうな背中を見つめて、私の口元は自然と緩んだ。なんだか、ちょっと彼に勝った気分。
「今日は私の勝ちですね?」
「……勝手に言ってろ、バァーカ」
些か乱暴に返されたその声は、ほんの少しだけ、嬉しそうだった。
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〈本日の晩ご飯/サンドイッチ〉
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