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数分後、テーブル上に並べられた品々は見事に「タケノコ尽くし」だった。タケノコご飯、筑前煮、お味噌汁。
そして。
「──どう? 茶碗蒸し」
「おいっしい! です!」
ぷるぷると表面を揺らす茶碗蒸しの味に、私は非常に感動していた。三つ葉、鶏肉、かにかま、しいたけ、タケノコ。それらの具材の味ももちろんだが、とにかく周りの卵の部分のお出汁加減が最高だった。くるくる回るお寿司屋さんかコンビニに売ってるやつぐらいしか食べる機会のない茶碗蒸しの美味しさに、私の瞳は輝きっぱなし。
恭介さんって、実は魔法使いなんじゃないだろうか。具材はどれも似たようなものなのに、それぞれ全然味が違うんだもの。
正面で茶碗蒸しをつつく彼は「銀杏がねーんだよな……」と少し不服げ。だが、銀杏なんて無くても私は全然構わない。だっておいしいもん。
「私、手作りの茶碗蒸しって初めて食べたかもしれないです!」
頬を緩めながら言えば、恭介さんは「ふーん?」と少し意外そうに瞬いた。
「家で食ったりしねーの? 茶碗蒸し」
「うーん……コンビニで買った奴なら、食べてましたけど……」
「何それ、逆に食ったことねえ。コンビニに売ってる?」
「売ってますよ、レンジで温めるやつ」
「ふーん……」
知らねえなー、と彼は呟いて頬杖をつく。確かに、これだけ料理が上手ならわざわざコンビニのものなんて買わないのかも。恭介さんがコンビニ弁当を食べている姿など想像できない。いや、見た目的には全然違和感ないんだけど。
「恭介さんってコンビニ行くんですか?」
「いや、行くわ普通に。俺のこと何だと思ってんの?」
つい尋ねてしまった問いに、恭介さんは不服げな声を返す。しかしやがて「まあでも……」と言葉を続けた。
「確かに、あんまり食いもんは買わねーかも。揚げ物とかはたまに買うけど」
「昔からですか?」
「んー、そうだな、ガキの頃から。俺の地元、超ド田舎だったからコンビニもスーパーも近くに無くてさ。そもそも俺の母親が料理上手な人だったから、わざわざコンビニに行くような機会もなかったっていうか……」
彼はそう言いながら、手元の茶碗蒸しを見つめる。
「この茶碗蒸しも、母親の得意料理。よく作ってくれてたから、これって家で食うもんなんだって自然と思ってたけど……ハナコん家は、違ったわけ?」
「…………」
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