05 - 茶碗蒸し

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 彼の質問に、私は黙り込んでしまった。  食事の手を止め、そっと視線を落とした私の顔色を逸早く察したのか、恭介さんはハッと息を飲んで即座に声を張る。 「──ごめん! やっぱ今のなし!」 「……、え? あ……いえ、あの……」 「“言いたくない質問には答えない”! ……それがだから、答えなくて良い」  恭介さんはバツの悪そうに吐きこぼし、席を立った。「ごちそうさま」と呟き、空いた茶碗を持って、彼はキッチンへと歩いて行く。  私はただ俯いて、手元の茶碗蒸しを見つめていた。 (……答えられなかった)  そんなつもりじゃ無かったのに、と目を伏せる。感じ悪かったかなあ、と後悔しても、もう遅いんだけど。  その時不意に、絵里子ちゃん、と私の名前を呼ぶ優しい両親の笑顔が脳裏を過ぎった。いたって普通の、どこにでもいるお父さんとお母さん。けれどそんな二人の顔は、私の頭の中でぼやぼやと滲むようにぼやけて行って。 『──あなたのせいよ! あなたがちゃんと絵里子に構ってあげなかったから!!』  ──の、ヒステリックな叫び声に変わってしまう。 『はあ!? 何言ってるんだ、俺のせいだって言うのかよ! お前がちゃんと見ておかなかったからだろ!』 『私はずっと絵里子に寄り添ってあげていたわ! あんな子になったのはあなたのせいだとしか考えられない!!』 『俺だって働きながら家族との時間を作ってやっただろ! 誰の稼ぎで生活できてると思ってんだ!?』 『私だって働いてるのよ! それに私、知ってるんだからね! あなたが部長の奥さんと──』 『もう、やめてよ! お父さん、お母さん! お姉ちゃんに聞こえちゃうよ……!』 『あんたは黙ってなさい! もういいのよ、あんな親不孝な子……!』  ──うちには必要ないわ……! 「──ハナコ」  ハッ、と目を見開く。  呼び掛けた恭介さんの声によって、私は現実に引き戻された。慌てて顔を上げれば、彼は気まずそうにそっぽを向いたまま、手に持った何かを私に差し出している。  その手に握られていたのは──コンビニに売ってある、ちょっとお高いアイスクリームで。 「……デザート……その……、やる」 「……」  目を合わせることなくぼそぼそと呟く彼の姿に、私は一瞬ぽかんと呆気に取られてしまった。先ほどの質問のお詫びのつもりなのだろうか。別に嫌なことを言ったわけでもないのに、律義な人だなあ。……そう考えていたら、じわじわと笑いが込み上げてくる。 「……ふふ」
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