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くすくすと笑い始めた私に、恭介さんはむっと口元をへの字に曲げた。
「なんだよ。抹茶味が不満か?」
「ふふっ……、ううん、好きですよ抹茶。でも──」
彼の手元で汗をかく抹茶味のアイスクリームをそっと受け取り、私は悪戯っぽく微笑んだ。
「コンビニで食べ物買ってるじゃん、って思っちゃって」
「……アイスは仕方なくね?」
むす、と唇を尖らせる彼が拗ねたように言う。私は受け取ったアイスクリームをテーブルの上に置き、最後の一口となった茶碗蒸しをスプーンですくい上げた。
口の中で溶けて行く、お出汁と卵の優しい味。
この美味しさのせいにして、怖い声を出していた両親のことも、あの時のことも、全部忘れてしまおう。そうだ、きっと、それがいい。
だって今は、彼とご飯を食べるこの時間だけが、私のすべてを作り上げているんだから。
「──ごちそうさまでした」
「……普通、デザートまで食ってから言うんじゃねーの?」
「あっ、確かに」
.
〈本日の晩ご飯/茶碗蒸し〉
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