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06 - バーニャなんとか
「ゴールデンウィークって何か予定ある?」
恭介さんが突然そんな事を言い出したのは、バイトから帰ってきた私が彼の部屋を訪れてすぐの事だった。私は瞳を瞬き、暫し考え込む。
ゴールデンウィーク。そういえばもう4月も後半に差し掛かっているのだから、大型連休と呼ばれるそれがやって来るのは当然だ。
「……今のところ、何にも……。あ、バイトぐらいなら」
「へー。だろうな」
最初から分かっていたかのような口振りに些かムッとする。いやまあ、勿論予定なんか無いんだけど。
「……何でそんな事聞くんです?」
首を傾げつつ問い掛ければ、彼は「あー……」と少し言いにくそうに視線を泳がせ、やがてポケットから何かを取り出した。
「……これ。興味ある?」
「これって……」
ぴらり。彼の手の中から出て来たそれをじっと見つめる。やがて、私は身を乗り出した。
「水族館!」
「……の、チケット。たまたま手に入れたんだけど、一緒に行くやついねーし、ハナコ行かねえかなって」
「い、行きたい……!」
目の前の紙切れを見つめ、キラキラと瞳を輝かせる。
隣の区に大きな水族館があるのだという情報を耳にしたことはあったが、まさか実際に行ける機会が来るとは思いもしなかった。
「で、でも、私でいいんですか……? 大学のお友達とかと行った方がいいんじゃ……」
「……いいよ。水族館とか行くやついねーし……」
喜ぶやつと行った方がいいだろ、と小さくこぼして、恭介さんはそっぽを向いてしまう。首の後ろを掻きながら目を逸らす彼に、私はおずおずと頷いた。
「……じゃ、じゃあ、行きます」
「いつだったら空いてる?」
「うーん……。多分まだ希望休出せるので、いつでも……」
「ふーん。分かった」
恭介さんはそう言ってスマホを取り出し、何やら画面を操作する。程なくして、「3日でいい?」と彼は私に問い掛けた。それに私はこくこくと頷く。
「分かりました」
「おっけ。じゃあ5月3日な。昼過ぎに迎え行くわ」
「はい! 覚えました! 53の日ですね!」
「……その覚え方、ちょっと嫌なんだけど……」
不服げに眉根を寄せる恭介さんに、私はハッとして「ごめんなさい!」と即座に謝った。とは言え優しい彼なので、「……ま、覚えやすいならそれでもいいよ」と小さく笑ってキッチンに戻って行く。
あ、そっか。よく考えたら、今は晩ご飯の準備の途中なんだった。
(……そういえば、今日は何作ってるんだろう)
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