06 - バーニャなんとか

6/8
前へ
/231ページ
次へ
 そうこうしているうちに、どうやら映画の予告編が終わってしまったらしい。彼は黙ったまま映画に目を向け、バーニャなんたらソースを付けたパプリカを口に運んでいる。 (私、あんまり映画って興味ないんだよなあ……)  うーん、と眉を顰める。嫌いなわけではないが、理解力が乏しいのか最後まで見てもあまり内容が理解できなかったりするのだ。アニメ映画とか、ポピュラーで分かりやすい作品なら全然いいんだけど。  たった今始まってしまった洋画はどことなくB級っぽい雰囲気が漂っていて、あまり私の好みでは無さそうだった。また途中で寝ちゃったりしないようにしないと、と密かに気合を入れつつ、私は謎のソースに浸した野菜を口に運ぶ。  その瞬間、衝撃が走った。 (……!? え、おいしっ……!?)  一瞬、思わず動きが止まる。たった今、半分ほどかじったばかりの人参を私は食い入るように凝視した。  え、これ人参だよね? ただの、生の人参だよね? (な、何これ……ソースだけでこんなに美味しくなるの!? 人参って……!)  大袈裟な反応かもしれないが、本気でそう思った。ぐつぐつと煮込まれているバーニャなんとかソースは、程よいニンニクの香りとなめらかな舌触り、そしてオリーブオイルの風味が超絶バランス良くて、つぶつぶと混ざっているブラックペッパーの辛味が野菜の旨味を引き立てている。 (す、すごい……! 初めて食べた……!)  野菜なんて、結局はマヨネーズ付けて食べるのが一番スタンダードに美味しいものだと思っていた。それを悠々と超えていく恭介さんのバーニャなんとか。恐ろしい。恐ろしく美味しい。  ぱくぱくと、ただの野菜なのに手が止まらなくなってしまって、ぐつぐつと煮込まれていたディップが少しずつ減っていく。もちろん野菜も減っていく。アスパラ、ブロッコリー、スナップエンドウ、カブ……。あ、やばい、このままじゃ全部食べちゃう。そう危ぶんで、私は少し野菜から離れようと砂肝のコンフィにフォークを伸ばした。──しかし、これも罠だったのだ。 (いや、こっちも超美味しいぃ……!)  時間が経ってしまったのか──多分私が寝ていたせいだけど──少し冷めてしまってはいるが、ほんのり温かい砂肝はふっくらと柔らかく、香草の風味とニンニクの香りが絶妙に食欲をそそる。でもちゃんと砂肝らしい歯ごたえもあって、このオイルにパンを付けて食べたら最高なのでは──と考えた矢先に、視界に飛び込んで来たのはガーリックトースト。 「……」  ごくり。生唾を飲み込んだ頃には、既に手が伸びていた。まだ温かいカリカリのトーストを即座に指でちぎる。  ふんわりと香ばしいガーリックの香りが鼻の奥を満たして、そっとパンの切れ端をコンフィのオイルに浸し、そのまま口に運べば──はい。そこはもう天国でした。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

503人が本棚に入れています
本棚に追加