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背の高さは普通より少し高いぐらいで細身。怖そうな見た目で、耳にはピアスが光っていて、最初見た時はもしかしてヤンキーかも、と考えて震えたものだ。そんな見た目とは裏腹に、実は面倒見が良くてお料理が上手で、几帳面。今夜もこうして、私に手料理を振舞ってくれようとしている。
「俺もちょうどさっき帰ってきてさ。連絡したけど返事来ないから、もしかしたらハナコもまだバイトかも、って思ってたんだけど……やっぱ遅かったんだな」
「えっ、連絡してたんですか!?」
「うん。……何だ、まだ見てねーのかよ」
ふ、と笑って彼はスマホを手に取ってメッセージアプリの画面を見せる。“午後6:03”と表示された時間に、「今夜遅くなる。たぶん10時ぐらい」とだけ送信されたそれは、いまだに未読のまま。サアッ、と血の気が引いて行くのが自分でも分かって、あわあわと唇を震わせながら恭介さんの顔を見上げる。
「……ご、ご、ごめんなさい……全然気付いてませんでした……」
「いや、別にいいし。この世の終わりみたいな顔してんじゃねーよ」
「で、でも……」
「つーか、そんなことより、それ何?」
ふと、恭介さんの視線が私の手に握られているビニール袋へと移って、私は「あ……」と小さく呟きながらおずおずとそれを持ち上げた。
「か、唐揚げです。オーナーがお客様にもらったらしくて、お土産にって……」
「へー、いいじゃん。でも参ったな。俺、家に肉仕込んで来ちまった」
「あ……今日の晩ご飯ですか?」
「そう。……まあいいか、今夜は贅沢に肉々しいメニューで行こうぜ」
ふ、と笑った彼の声に頷く。どうやら、今夜の晩御飯はお肉らしい。豚肉、鶏肉、牛肉、エトセトラ。料理上手な彼の事だから、馬肉とか羊肉とか、その辺りが食卓に並べられても不思議ではない。そんなことを考えていたら、ぐうぅ、と腹の虫が空腹を報せた。隣からはクスクスと笑い声。
「うるせー虫も鳴き始めた事だし、早く帰るか」
「……う」
かあ、と火照る頬を押さえて、私は歩く速度の速まった彼の背中を追い掛ける。気を抜けばからっぽのお腹が再びぐうぐうとやかましく鳴きそうになるのを必死で耐えて、私と恭介さんは暗い夜道を並んで歩いて行った。
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