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「丸いボールみたいなヤツ。それ2つ置いといて、後で使うから。多分見りゃ分かる」
「は、はい」
意味はよく分からなかったが取り敢えず頷き、私は冷凍庫へと駆け寄った。中を開けると、確かにラップに包まれたピンポン玉サイズの味噌の玉がいくつか並べられている。
よく分からないまま私はそれらを二つ取り出し、食卓へと運んだ。
「もう出来るから座ってて」
ふと、キッチンから声が投げられる。次いで漂って来たのは美味しそうな匂いで、酸味のあるその香りには覚えがあった。バイト先の居酒屋のメニューにもある、この香りは。
「南蛮酢……!」
「お、正解。唐揚げは南蛮漬けにしてみた」
「わぁ……すごい……!」
食欲をそそる香りに思わずよだれが溢れる。それをゴクリと飲み込んだ頃、切り分けられてタッパーに並べられた唐揚げと、細くスライスされたニンジンと玉ねぎ、それから鷹の爪の彩りが美しい南蛮漬けが運ばれて来た。
「……本当はもう少し冷やして味が染み込んでから食うんだけどな。ま、少し濃いめに味付けたし大丈夫だろ」
「美味しそう……!」
「生姜焼きも出来たから、食おうぜ」
「はいっ」
うきうきと両手を握り締め、私は椅子に腰掛けた。焙じ茶の入ったティーポットにお湯を注いだ頃、キャベツとトマトのお皿に盛り付けられた生姜焼きが美味しそうな香りを放ってテーブルに並べられる。
「ふわぁぁ……絶対おいしい……!」
「ザ・真夜中の生姜焼き。一丁上がり〜」
にやりと不敵に笑む彼の言葉で、そういえばもう12時になっちゃうんだ、と現在の時刻を再認識した。こんな時間に揚げ物と生姜焼き……って、いいのだろうか。とてつもなく罪な味がしそう。
「ま、でも米も食うだろ?」
「もちろんですっ」
「即答かよ、躊躇ねえな……」
苦笑いを返され、私はハッと口元を覆った。淑女たるもの、この時間帯の炭水化物にはもっと慎重になるべきなのでは? と己の発言を後悔した私だったが、時すでに遅し。目の前にはホカホカの炊きたてご飯が運ばれて来てしまった。
「……まーた妙なこと考えてたろ」
「え! い、いえ、そんなことは!」
「ばーか、嘘ついてもバレバレだって。お前考えてること全部顔に出るタイプだから」
全てお見通しだと言わんばかりに恭介さんが嘆息する。程なくして、カトラリーケースと空のお椀を持った彼は向かい側の椅子に腰掛けた。
ふと、私は先程持って来た丸い味噌の玉に視線を落とす。
「……あの、これは?」
「ん? ……ああ、それか。それは即席の味噌汁が作れる魔法のボール」
そう言って彼はラップに包まれたそれを一つ取り、空のお椀に凍った味噌の玉を入れる。続いて、その中にポットのお湯を注いだ。
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